「うちのメンバーは本音を話してくれない」「経営者の自分より同期同士の方が信頼されている気がする」――こんな悩みを抱える中小企業経営者は少なくありません。本記事では、メンバーと本当の意味で心を通わせるための実践方法を、心理的安全性・傾聴・時間配分・ジョハリの窓という4つの視点から税理士視点で解説します。
この記事の結論:メンバーと心が通じないのは、性格の相性ではなく対話の量と質が足りていないだけであることがほとんどです。鍵は「①話す時間を仕組みとして確保する ②解決策を出す前に最後まで聴く ③経営者から先に自己開示する」の3点。この3つを回すと、お互いが知っている領域(開放の窓)が広がり、問題が起きる前に相談が上がってくるようになります。退職の申し出で初めて不満を知る状態は、対話の設計で防げます。
Contents
中小企業経営者がメンバーと心を通わせられない悩み
組織が10名・20名と成長していく中で、創業期の「家族のような距離感」が薄れていくのは自然な現象です。ただし、経営者として意図的に手を打たない限り、距離は開く一方になります。
本音が上がってこない
経営判断に必要な現場の情報や、メンバーの本当の悩み、組織のひずみ――これらは「ざっくばらんに話せる関係性」がなければ経営者の耳に届きません。フォーマルな会議で出てくる発言は、すでにフィルターを通った後の情報です。
本音が上がってこない会社では、問題の発見が遅れ、対応も後手に回ります。心を通わせる対話の土台がない限り、経営者は真の現場情報から遠ざかるのです。
同期や同僚の方が信頼されている
「なぜ若手は新人同士で相談し合って、自分にアドバイスを求めないのか」と感じる経営者は多いものです。理由は実にシンプルで、若手同士の方がお互いを知る時間を圧倒的に多く取っているからに他なりません。経験値や立場ではなく、純粋に時間量の問題です。
1on1を入れても表面的な会話で終わる
月1回1時間の1on1を導入しても、メンバーから本音が出てこない――この悩みもよく聞きます。原因は、その1時間にたどり着くまでの日常的な関係性が薄いまま、形式だけ整えてしまっていることにあります。
心を通わすコミュニケーションが生まれない原因
心理的安全性が確保されていない
心理的安全性とは、本音で話しても評価が下がらない・否定されない安心感のこと。経営者が一方的に話す場、否定的な反応がすぐ返ってくる場では、メンバーは口を閉ざします。
傾聴ができていない
経営者は意思決定者である分、つい結論を急ぎ、解決策を提示してしまいがちです。しかし、メンバーは「答え」より先に「聞いてもらえた実感」を求めているケースが大半です。傾聴のスキルが不足すると、対話はすぐに途切れます。
共通した時間が圧倒的に足りない
マネジメント能力が高まると効率化で時間圧迫は解消しますが、経営者が忙しいのは事実です。「メンバーと過ごす時間」を意図的に確保しない限り、自然には増えません。
✅ 自己診断:あなたの会社はいくつ当てはまりますか?
- 社員と1対1で話す時間を月に一度も取っていない
- 会話が業務連絡だけで終わっている
- 社員が何に困っているかを本人の口から聞いていない
- 経営者が話す時間の方が長い
- 相談されたときにすぐ解決策を出してしまう
- 退職の申し出で初めて不満を知ったことがある
- 管理職に傾聴の仕方を教えていない
3つ以上当てはまる場合、社員の本音が経営者に届かない構造になっている可能性があります。
監修税理士 塩谷宣弘の見解
心理的安全性というと難しく感じられるかもしれませんが、分かりやすく言えばざっくばらんに本音で話ができるということです。私の場合は、まず「とりあえずざっくばらんに何でも話していこうよ」という空気を作るところから始めます。そのうえで大事なのが傾聴とオウム返し。「この人は私のことを十分に知っている」と本人が感じる状態ができるまで、とにかく聞き切ります。単純に共感するのとは違います。自分の中の当たり前が、その人の当たり前ではないという前提に立って、その人の気持ちになって物事を考えられる状態を作ることです。
▶ 関連コラム:1on1の目的設計|形骸化させない導入前の準備(対話を仕組みとして回すための、目的設計)
メンバーと心を通わす3つの原則
- 心理的安全性を場づくりで確保する(何でも話していいという空気を先に作る)
- 傾聴とオウム返しで相手を理解する(「知ってもらえている」状態まで聞く)
- 共通の時間を意図的に作る(時間の優先順位を上げる)
原則1:心理的安全性を場づくりで確保する
難しく考える必要はありません。「とりあえずざっくばらんに何でも話していこう」と経営者から発信することから始まります。フォーマルな会議室ではなく、立ち話やランチの場で、笑顔のうちに本音が出る空気を作ることが第一歩です。
原則2:傾聴とオウム返しで相手を理解する
メンバーが「経営者は自分を十分に知っている」と感じる状態が出来上がるまで、とにかく傾聴に徹すること。オウム返しで相手の言葉を繰り返し、共感のサインを示しながら、相手の特性と価値観を理解していきます。重要なのは、自分の中の「当たり前」がその人の「当たり前」ではない前提で聞くことです。
原則3:共通の時間を意図的に作る
1on1の質を上げる前に、日常的な共通時間の量を増やすことが先決です。月1回1時間の1on1と、毎日昼ごはんを一緒に食べる関係――どちらが「自分のことを思って話してくれている」と感じられるかは明らかです。
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中小企業経営者のための実務ポイント
意図的なランチと打ち上げの設計
意図的に昼食を一緒に取る、何かのプロジェクト達成の打ち上げを企画する――こうした「ざっくばらん」な場を月単位で設計することで、メンバーとの共通時間は積み上がります。経営者として「どうやってる?」のような自己開示から始め、自分の弱さや迷いを見せることが、人間味のある対話の起点になります。
(出典)産業別の入職率・離職率は 厚生労働省「雇用動向調査 結果の概況」で、中小企業の人材の動向は 中小企業庁「中小企業白書」で確認できます。
監修税理士 塩谷宣弘の見解
正直に申し上げると、私も「なぜ若手の新人は新人同士で話をして、私にアドバイスを求めないのだろう」と思ったことがあります。理由はとてもシンプルでした。若手同士のほうがしっかり話をしていて、自分のことを知ってもらえていると感じるからです。経験や役職ではありません。「1ヶ月に1回の1on1を1時間」と「毎日一緒に昼ごはんを食べていろいろ話す」。どちらが『私のことを思って話してくれている』と本人が感じるかは、圧倒的に時間が優先されます。ジョハリの窓で言えば、多くの方は「自分が知っていて相手が知らない」窓にアプローチしようとします。ですが本当に大事なのは「自分も知っていて相手も知っている」開放の窓をどれだけ広げられるか。自分のことを何も知らないと思っている人から「あなたにはこういう可能性がある」と言われても、響くことはほとんどありません。
▶ 関連コラム:メンバー育成|どうなりたいかを引き出す方法(広がった関係の上で、本人の「なりたい姿」を引き出す)
ジョハリの窓「開放の窓」を広げる
ジョハリの窓では、自分と他人の認識を4象限で整理します。「自分も知っていて、相手も知っている領域(開放の窓)」をいかに広げるかが、心を通わす対話の核心です。多くの経営者は「自分は知っていて相手は知らない」領域(盲点の領域)を埋めようと一方的にアドバイスしがちですが、これは効果が薄い。まず開放の窓を広げ、自分のことを相手が知っている状態を作ることで、初めて踏み込んだ会話が成立します。
時間の使い方を経営判断として位置づける
経営者の時間は有限です。ほっと一息を自分のためだけに使うのか、メンバーとの共通時間に使うのか――これは選択肢として常に経営者の手元にある経営判断です。マネジメントを強くしたい経営者ほど、人のために時間を使う意思決定を意図的に増やしています。
私たちは顧問先の経営者と毎月、試算表を挟んで「計画とどれだけズレたか」「次の四半期で何に着手するか」を1時間ほど議論しています。数字の報告を受ける時間ではなく、次の一手を決める時間として使っていただくためです。決算のときだけ数字を見る関係では、打てる手はどうしても限られます。
ここまでが、対話に共通する考え方です。ここから先は、御社の組織図と管理職の稼働状況が分からないと、誰がどの頻度で対話の時間を持つべきかを設計できません。経営者一人で全員と向き合える規模には限界があるためです。
メンバーと心を通わす方法に関するよくある質問
心理的安全性とは何ですか?
本音や反対意見を口にしても、評価が下がらない・人格を否定されないという組織内の安心感のことです。Googleのリサーチでも、生産性の高いチームの最大要因として挙げられています。中小企業では、経営者自身の姿勢が直接影響するため効果が大きい領域です。
1on1ミーティングは何分・どれくらいの頻度がよいですか?
頻度を上げる方が重要で、週1回30分、または隔週で45〜60分が一般的に効果的とされています。月1回1時間は最低ライン。1on1だけに頼らず、日常のランチや雑談での共通時間と組み合わせるとさらに効果が高まります。
経営者の自己開示はどこまで必要ですか?
家族関係や財務的に機密な情報は別として、自分の悩み、迷い、過去の失敗は積極的に開示する価値があります。経営者の弱さを見せることで、メンバーも本音を出しやすくなり、組織全体の心理的安全性が高まります。
傾聴とオウム返しの違いは何ですか?
傾聴は相手の話を遮らず聞き続ける姿勢全般を指し、オウム返しはその技法の1つです。「〇〇と感じているんですね」と相手の言葉や感情を繰り返すことで、「ちゃんと聞いてもらえた」感覚を作る効果があります。慣れないうちは少し練習が必要ですが、効果は絶大です。
まとめ|時間と傾聴で開放の窓を広げる
メンバーと心を通わす方法の核心は、心理的安全性のある場づくり・徹底した傾聴・意図的な共通時間の確保の3点に集約されます。ジョハリの窓の「開放の窓」を広げ続けることが、本音の対話の前提条件です。経営者として、人のために時間を使う選択を増やすことが、組織のマネジメントを根本から強くしていきます。同じ方向を向く仲間との関係は、時間と対話の積み重ねでしか作れません。
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