「営業利益率」「経常利益率」を経営指標としている中小企業は多いものの、「資産効率(総資産利益率=ROA)」まで見ている経営者は限られます。同じ売上を上げるのに少ない資産で済むほど、企業価値は高まります。本記事では、ROAと資産回転率を経営指標に組み込む考え方を、不動産投資の具体例とともに税理士視点で解説します。
この記事の結論:資産効率とは、その資産に投じたお金がどれだけ利益を生んでいるかです。見るべきは「①ROA(総資産利益率)を一つの目安として置く ②同じ資金が年に何回転しているかを見る ③大きな投資には大きなリターンを設定する」の3点。売上利益率だけを見ていると、資産が膨らんでも気づけません。現金を寝かせることは、投資効率を捨てているのと同じです。同じ資金で2回転できれば、利益は理論上2倍になります。
Contents
中小企業経営者が資産効率で抱える悩み
売上利益率しか見ていない
多くの中小企業では、「売上の○%の利益率」という指標で経営を語ります。これは重要ですが、同じ利益を稼ぐのにどれだけ資産を使っているかを測る視点がないと、本当の経営効率は見えません。
資産が膨らんでも気にしない
事業を続けていると、資産はじわじわ膨らみます。資産が増えても利益が比例して増えなければ、資産効率は下がっているのですが、この指標を可視化していない会社では問題に気づきません。
資産回転の発想がない
「同じ資産で何回利益を生み出せるか」という回転率の発想がないと、設備や在庫を抱えたままになり、効率は悪化します。
資産効率が下がる構造的原因
投資信託にも劣る投資効率
ROAの目安として参考になるのが、株式・投資信託の長期リターン(5〜10%)です。企業の総資産利益率がこのラインを下回るなら、その資産を投資信託に振り向けた方が儲かるという計算になります。事業を続ける意味を問われる水準です。
資産回転を意識していない
3,000万円を1年かけて回し、300万円の利益を得る事業――一見ふつうの利益率ですが、もし同じ3,000万円を2回転させれば、同じ利益率で2倍の利益が出せる計算になります。資産回転率の発想がないと、こうした機会を逃します。
大きな資産投資が小さなリターンに終わる
大きな資産を投資するのであれば、当然大きなリターンを目指すのが基本です。しかし指標がないまま投資判断をすると、投資規模に見合わない利益にとどまるケースが頻発します。
✅ 自己診断:あなたの会社はいくつ当てはまりますか?
- ROA(総資産利益率)を計算したことがない
- 売掛金の回収サイトを短縮する取り組みをしていない
- 在庫の回転率を把握していない
- 事業に使っていない資産を保有している
- 設備投資の判断を「節税」で決めている
- 同じ資金で年に何回転できているかを見ていない
- 資産の購入を投資効率で比較していない
3つ以上当てはまる場合、同じ資金でもっと利益を生めるのに機会を逃している可能性があります。
(出典)業種別・規模別の総資産や利益水準は 財務省「法人企業統計調査」で、設備投資や資金調達の動向は 日本政策金融公庫「調査・研究」で確認できます。自社の位置を客観的に把握する材料になります。
監修税理士 塩谷宣弘の見解
私が総資産利益率を必ず見るのは、比較する相手があるからです。株式や投資信託は、長期で見れば5〜10%程度は回るという統計があります。ということは、会社のROAがそれを下回っているなら、同じお金を投資信託に置いておいたほうがよかったという話になってしまいます。事業も投資です。大きな資産を投じるのであれば、大きなリターンを目指す。それが基本の考え方だと思っています。
▶ 関連コラム:銀行が見るポイント|実質借入と債務償還年数(銀行が最初に見るのは、まさに資産の中身)
資産効率を高める3つの原則
- ROA(総資産利益率)を1つのラインに置く(売上高利益率だけを見ない)
- 資産回転率を経営判断の物差しにする(その資金が何回働いたかを見る)
- 大きな投資には大きなリターンを設定する(投じた額に見合う目標を先に置く)
原則1:ROA 10%を1つのラインに置く
業種業態により総資産の構成は異なりますが、総資産利益率10%を1つの目安にすることをおすすめします。これを下回るなら、事業構造の見直しが必要なサインです。投資信託の長期リターンを上回るのが経営の最低条件と考えてください。
原則2:資産回転率を経営判断の物差しにする
同じ資産で何回利益を生み出せるか――資産回転率を上げる発想==が、利益を倍増させる鍵です。不動産投資、在庫管理、設備稼働などすべての領域で、回転率を意識した経営判断が求められます。
原則3:大きな投資には大きなリターンを設定する
投資判断時には、必ず「この資産を投じることで生み出すべき利益」をROAベースで試算してください。投資額×目標ROAで必要利益が計算でき、その水準を稼げない投資は再検討となります。
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中小企業経営者のための実務ポイント
不動産投資の例:1回転 vs 2回転
不動産業を例に考えてみましょう。3,000万円の資金で1年間1物件運用して300万円の利益を出すのと、3,000万円の資金を2回転させて同じ利益率で稼ぐのとでは、後者の方がトータル利益は倍になります。確かに2回転は難易度が上がりますが、回転率を上げる方向に進む方が利益は積み上がります。
融資との相乗効果も大きい
資産回転率を上げて売上が伸びると、融資も受けやすくなります。一般的に、企業の融資は売上が上がれば上がるほど枠が広がる傾向にあります。資産回転率の向上は、利益面でも資金調達面でもプラスしかありません。回転率改善は中堅成長企業にとって最強の経営施策の1つです。
監修税理士 塩谷宣弘の見解
回転率という発想は、あまり語られません。たとえば3,000万円の資金を1年かけて1回転させて300万円の利益を出す仕事と、同じ3,000万円を2回転させる仕事。同じ利益率なら、後者はトータルの利益が倍になります。もちろん2回転させるのは簡単ではありません。ただ「いくら儲かったか」だけでなく「その資金が何回働いたか」を見る癖をつけると、判断が変わってきます。そして売上が上がれば融資も受けやすくなりますから、回転率を上げることは資金調達の面でもプラスにしかならないと、私は感じています。
▶ 関連コラム:中小企業の資金繰り|借りるときに全力で借りる理由(借りた資金を「意味のない資産」に換えないための前提)
自社の総資産の動きを見直す
担当の税理士として、四半期ごとに「総資産が何回転して何の利益を生み出したか」を可視化することをおすすめしています。経営者と幹部が同じ数字を見ながら、どの資産を増やし、どれを減らすかを議論する場が、組織の意思決定スピードを上げます。
私たちは顧問先の経営者と毎月、試算表を挟んで「計画とどれだけズレたか」「次の四半期で何に着手するか」を1時間ほど議論しています。数字の報告を受ける時間ではなく、次の一手を決める時間として使っていただくためです。決算のときだけ数字を見る関係では、打てる手はどうしても限られます。
ここまでが、資産効率に共通する考え方です。ここから先は、御社の貸借対照表と粗利率が分からないと、どの資産が効率を落としているかの特定も、改善余地の金額も出せません。同じ資産構成でも、業種と回転率によって評価が変わるためです。
資産効率に関するよくある質問
ROAの目安は業種で違う?
はい、業種により大きく異なります。製造業・不動産業など資産集約型は5〜8%、サービス業・小売業など回転重視型は10〜15%が一般的な水準です。自社の業界水準を踏まえて目標を設定してください。
資産回転率はどう計算する?
シンプルには売上÷総資産で算出できます。年間2回転なら回転率2.0。この数字を四半期ごとに追うことで、効率の変化が見えるようになります。
不要な資産はどう判断する?
「この資産がもたらす利益が、投資信託の長期リターン(5〜10%)を下回っているか」が1つの判断軸です。下回る資産は売却・組み替えの検討余地ありです。事業性のないリゾート会員権や遊休不動産はこの観点で点検してください。
ROAを上げる最短ルートは?
大きく2つです。①利益を増やす(粗利率改善・コスト削減)、②資産を減らす(不要資産の売却・回転率向上)。即効性があるのは②で、特に在庫圧縮や売掛回収サイクル短縮が現場で取り組みやすい施策です。
まとめ|ROAと回転率で経営判断を進化させる
中小企業の経営指標は、売上利益率だけでなくROA(総資産利益率)と資産回転率まで組み合わせることで、本当の経営効率が見えるようになります。投資信託の長期リターンを上回るROAを最低ラインとし、同じ資産でいかに多くの回転を生み出すかという発想を持つこと――これが中堅成長企業の財務体質を強くします。資産回転率は利益・資金調達の両面でプラスしかない経営指標です。
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