「うちの社員に『どうなりたい?』と聞いても答えが返ってこない」――こんな経験を持つ中小企業経営者は多いものです。実はこの問いの立て方そのものに改善余地があります。本記事では、メンバーの「なりたい姿」を組織として引き出す3つの実践方法を、周囲からの承認・本人の言語化・組織での共有という流れで税理士視点から解説します。

メンバー育成で中小企業経営者が直面する悩み

メンバー育成について考える中小企業の経営者
メンバーの「どうなりたい」を引き出すには順番がある

「どうなりたい?」に答えが返ってこない

多くの経営者は1on1や評価面談で「将来どうなりたい?」とストレートに尋ねます。しかし、普段から自分の未来像を言語化していないメンバーは、その場で答えを作ることができません。「特にないです」「お任せします」と返ってきて、対話が止まってしまうのです。

キャリアプランが「他人事」になっている

会社が用意したキャリアパスをメンバーに当てはめても、自分事として受け止められていない――この現象も中堅企業でよく見られます。本人の内側から湧き出る「こうなりたい」がない限り、外から与えるキャリアは響かないのです。

個人の成長が組織の成長につながらない

メンバーが「どうなりたいか」を持たないまま日々の業務をこなすと、成長スピードは緩やかになります。結果として、組織全体の人的資本が膨らまず、年商10億円の壁を越えるエネルギーが生まれません。

「どうなりたい」が出てこない原因

経営者が育成課題を思案する場面
問いの順番が間違っていることが本質的な原因

普段から未来を考える習慣がない

日々の業務に追われていると、自分の3年後・5年後を意識する機会はほとんど訪れません。突然「どうなりたい?」と聞かれても、頭の引き出しに材料がなければ言葉は出てこないのが当然です。

自分の強みや魅力を自覚していない

多くの人は、自分の強みや他人から見た魅力を正確に把握していません。自己評価は他者の目を通じて初めて形になる側面があります。承認の経験が少ないまま「どうなりたい」を聞いても、判断材料が足りないのです。

失敗を恐れて未来を語れない

「大きな目標を口にして達成できなかったらどうしよう」という不安が、未来を語ることを躊躇させます。組織として未来像を語ることが歓迎される文化を持っていないと、本音は出てきません。

メンバーの未来像を引き出す3つの原則

経営者がメンバーと面談する場面
承認 → 言語化 → 共有の順番が育成のカギ

原則1:周囲からの承認を先に届ける

いきなり「どうなりたい?」を聞くのではなく、周囲の人がそのメンバーの努力・魅力・貢献をどう感じているかを言葉として届けることから始めてください。第三者の証言が、本人の自己認識を形作る材料になります。

原則2:承認をもとに本人が言語化する

承認の言葉を受けたメンバーは「自分はこういう存在として周囲に映っているのか」と気づきます。その気づきをベースに、「それならば自分はこういうことをして、こういう人間になりたい」と本人の言葉で未来像を描けるようになります。

原則3:組織の場で発表し支え合う

個人の未来像は、組織の場で発表してこそ強くなります。「私はこういう人間になりたい」という宣言を、仲間が支え合う前提で受け止める文化が、人の育成スピードを劇的に上げます。

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中小企業経営者のための実務ポイント

メンバーの成長計画を組織で共有する場面
承認・言語化・共有を仕組みとして回す

「承認の場」を月1で設計する

承認は思いつきでやるのではなく、仕組みとして月1回の場を設けるのが効果的です。例えば「Good Job共有会」「メンバー紹介リレー」など、第三者がそのメンバーの魅力やエピソードを語る場を作ります。本人がいる場で語られることが大切です。

「なりたい姿」発表の場を四半期に1度

承認を受けたメンバーが、四半期に1回「私はこういう人間になりたい」を組織の前で発表する場を作ります。これは評価面談とは別物として、支え合いの宣言の場として位置づけてください。発表後、仲間からの応援メッセージや具体的なサポート提案が出ることで、本人のコミットメントが高まります。

経営者がロールモデルとして未来像を語る

メンバーに未来を語ってほしいなら、まず経営者自身が「自分はこういう人間でありたい」を語ること。==経営者の自己開示と未来像の言語化が、組織全体の成長の起点==になります。完璧な未来像でなくてよく、迷いを含めた等身大の語りが効果的です。

メンバー育成と「どうなりたい」に関するよくある質問

メンバーに直接「どうなりたい?」と聞いてはいけませんか?

聞くこと自体が悪いわけではありません。ただ、承認の積み重ねが先にないと、答えが返ってきにくいのが現実です。承認 → 言語化 → 発表という順番を意識すると、対話の質が大きく変わります。

承認は具体的にどう伝えればよいですか?

「すごいね」「頑張ってるね」といった抽象的な言葉ではなく、具体的なエピソード・行動・お客様の反応を引用して伝えてください。「先日の○○の件で、お客様から『〇〇さんのおかげで助かった』と感謝の言葉をいただいた」のように、固有の事実を含めることが効果を高めます。

未来像を発表しない・できないメンバーへの対応は?

発表を強制すると逆効果です。「今は決まっていない」も尊重される場として運営し、参加の心理的ハードルを下げてください。承認の積み重ねを続けるうちに、本人のタイミングで言葉が出てくることが多いものです。

経営者がやるべきことはどこまでですか?

承認の文化を作り、発表の場を設計し、自らがロールモデルとして語る――この3つです。個別の育成は管理職に任せる前提ですが、組織文化の土台を作るのは経営者にしかできません。

まとめ|承認→言語化→共有が育成の王道

メンバーの「どうなりたい」を引き出すには、周囲からの承認 → 本人による言語化 → 組織での共有という流れが最も効果的です。いきなり問いを投げる前に、その人の魅力や貢献を周囲が言葉にして届ける時間を作ってください。承認が積み重なったとき、本人の中から自然と「こういう人間になりたい」が生まれます。==支え合う組織文化が、一人ひとりの主体的な参加を引き出す==のです。

互いを支え合うチームの姿
承認の循環が一人ひとりの主体性を育む

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