「うちの社員にもっとやりがいを持って働いてほしい」と願う中小企業経営者は多いものの、具体的に何から手をつけるべきか分からないという声をよく聞きます。やりがいとはその仕事をやる意味、自分が時間を使う意味があるかどうかに集約されます。本記事では、やりがいのある組織を作る考え方を、パーパス設計とメンバー個人の働く意義の一致という2つの軸から税理士視点で解説します。
Contents
やりがいのある組織が中小企業で生まれにくい理由
大企業の事例では「パーパス経営」「エンゲージメント向上」といった言葉が並びますが、年商1〜10億円規模の中小企業の現場で同じ言葉を借りてきても機能しません。中堅企業特有の事情を踏まえた組織設計が必要です。

「働く意味」を語る言葉が会社にない
多くの中小企業では、創業から数年〜十数年の中で「うちの会社は何のために存在するのか」を言語化する機会がないまま事業を伸ばしてきています。日々の売上・利益が経営の中心テーマであり、「働く意味」を語るのは創業期の創業者のスピーチ以来ない、というケースも珍しくありません。
言葉がなければ、メンバーは自分の仕事の意義を自分で作らなければなりません。経営者が会社の存在意義を語っていない会社では、ほとんどのメンバーが「働く意味」を曖昧にしたまま日々を過ごしているという現実があります。
パーパスが曖昧でメンバーに伝わらない
ホームページに理念を掲載していても、それがメンバーに自分事として伝わっていない会社は非常に多くあります。理念ができている=伝わっている、ではないのが組織づくりの難しさです。
「この会社は何を目指していますか」とシンプルに尋ねたとき、即答できる社員が何割いるかを想像してみてください。この問いに自信を持って答えられる社員の割合が、組織のやりがいレベルとほぼ一致します。
個人の目標と会社の方向が交わらない
パーパスが明確でも、それだけでメンバーが自分事として動くわけではありません。個人がどんな未来を描いていて、それが会社の進む方向と重なっているか――この交差点が見えない限り、やりがいは生まれにくいのです。
中堅企業では特に、メンバーが「自分の人生をどう生きたいか」を考える機会も、それを上司や経営者と共有する場もないまま、目の前の業務に追われがちです。
メンバーがやりがいを感じられない原因
やりがいが生まれない背景には、経営者側の「言語化不足」と「対話不足」の両方が絡んでいます。中小企業ならではの構造を整理します。

経営者がMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を磨いていない
MVVは作って終わりではありません。経営者の能力は、MVVをいかに磨き込み、メンバーにとって魅力的なものにしていけるかにかかっています。世の中の変化、自社の成長フェーズに合わせて、言葉も中身も更新していく必要があります。
「しょうもないパーパス」のために働きたいと思う人はいません。経営者がMVVを磨くことを後回しにすると、組織のエンゲージメントは目に見えて下がっていきます。
短期利益偏重で「売り抜け」の印象を与える
近年はM&Aによる事業売却が一般的な選択肢として広く認識されています。M&A戦略そのものは正当な経営判断であり、否定すべきものではありません。ただ、社員視点で「会社を大きくしてM&Aで売り抜けたい」というメッセージだけが伝わってしまうと、メンバーは「自分は売り抜けるための駒なのか」という疑念を持ちかねません。
「できるだけ利益を出すことが会社の目的」と社員が感じると、やりがいは急速に失われます。==どんな経営戦略を取るとしても、社員に対しては「この会社で働く意味」をパーパスとして語り続けることが不可欠==です。
個人の働く意義を一緒に考える場がない
「あなたは本当はどうなりたいのか」――この問いに即答できるメンバーは多くありません。にもかかわらず、多くの会社では「個人のキャリアは個人で考えるもの」として、組織として一緒に考える場を設けていないのが現実です。
個人の働く意義は、本人だけでは見えにくいものです。経営者や上司、同僚と対話しながら少しずつ言葉になっていくもの。その場を作らないと、いつまで経っても「目の前の業務をこなす日々」から脱出できません。
やりがいのある組織をつくる3つの原則
ここからは、中堅成長フェーズの中小企業経営者が今日から実践できる3つの原則を紹介します。==どれも経営者自身が時間を割くべき仕事==です。

パーパスを「どんな世界を作るか」で語る
多くの経営者はパーパスを「我々は何をする会社か」というやり方ベースで語りがちですが、それでは社員の心は動きません。パーパスが達成された先にある社会がどれだけ素晴らしいか――この未来像をありありと描いて伝えるのが効果的です。
「我々の製品が普及することで、地域の中小企業の生産性が2倍になる」「我々のサービスで、お客様の家族との時間が増える」――こうしたパーパスが実現した世界の輝きを語ることで、メンバーは「自分はその未来を作る一員だ」と感じられるようになります。
経営者自身がMVVを磨き続ける
MVVは作った瞬間がゴールではなく、磨き続けるスタートです。経営者として、四半期に1度はMVVを言語化し直し、社員の反応や事業環境の変化を踏まえて表現を更新していく取り組みが必要です。
担当の税理士としても、MVVが磨かれている会社は財務指標も改善しやすい傾向を実感しています。言葉の力は、財務の力と直結しているのです。
個人の働く意義と会社の未来を重ねる
パーパスを明確にするだけでは、自分事の組織は作れません。個人が「自分はこの仕事を通じて何を実現したいのか」を明確にし、それが会社の進む方向と重なって初めて、メンバーは自己実現の場として会社を捉え始めます。
「会社のパーパス」と「個人の働く意義」が交わる接点を作ることが、やりがいのある組織づくりの本丸です。
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中小企業経営者のための実務ポイント
ここでは、私たちが実際の顧問先支援で見てきた組織づくりの実践方法をお伝えします。

採用面接で過去の歴史を深く聞く
個人の働く意義を引き出す第一歩は、その人の過去の歴史をしっかりと聞くことです。私たちは採用面接で複数回の面談を重ね、過去の経験・原体験・喜びを感じた瞬間を丁寧にヒアリングします。これによって、その人が本当にしたい未来を一緒に考える土台ができます。
採用は入口の一発勝負ではなく、入社後も継続して個人の意義を確認し続けるプロセスです。==採用面接で深く聞いた話が、入社後の1on1や評価面談の起点になる==ことで、長期的に強い組織が育っていきます。
周囲からの承認とお客様の感謝を可視化する
個人が「自分はこのように生きていくことが幸せなのではないか」と気づくきっかけは、周りの人からの承認や、お客様からの感謝の声に集約されます。なぜその人が頑張れているのか、その人が顧客に与えている価値、お客様から感謝されている事実――これらを身近な人が言葉にして本人に伝える機会を作ることが重要です。
具体的には、月に1回の振り返り面談、顧客アンケートのフィードバック共有、社内表彰での具体的な言葉の伝達など、承認と感謝が個人に届く仕組みを作ることが組織開発の実務です。
経営者がパーパスの素晴らしさを語り続ける
残念ながら、経営者の発信頻度が落ちると、組織のエンゲージメントも落ちます。==経営者の最重要任務はMVVを磨き、語り続けること==。毎月の全体朝礼、四半期の経営方針発表、年次のキックオフ――こうした場で繰り返しパーパスを語ることで、メンバーの中にも言葉が定着していきます。
会社の目的と個人の目的を徐々に一致させていくことで、強い組織が形成されます。これがぶれない経営者の下では、最終的に同じ方向を向いて頑張れる仲間が集まり、組織は強靭になっていきます。
やりがいのある組織づくりに関するよくある質問
パーパスとミッションの違いは何ですか?
パーパスは「なぜこの会社が存在するのか」という存在意義で、社会との関係性を示します。ミッションはパーパスを実現するために自社が果たすべき具体的な使命です。中小企業では両者を厳密に分けず、「我々は何のためにあり、どんな未来を作るのか」を1つの言葉で表現するスタイルが現実的です。
小さな会社でもMVVは必要ですか?
むしろ規模が小さいほど経営者の言葉が直接届くため、MVVの効果は大きいです。10名規模の会社でも、経営者が「なぜこの会社をやっているか」を明確にして繰り返し語ることで、組織の一体感は飛躍的に高まります。MVVは大企業のためのものではなく、中小企業経営の中核ツールです。
個人の働く意義はどう聞き出せばいいですか?
いきなり「あなたの働く意義は?」と聞いても答えられない人が大半です。過去の出来事で印象に残っていることや、嬉しかった瞬間を時系列で聞いていくほうが効果的です。複数回の対話を重ねる中で、本人自身が「自分はこれが好きだったんだ」と気づくプロセスを伴走する姿勢が大切です。
やりがいだけあれば給与は低くてもいいですか?
違います。やりがいは「給与」「働く環境」「成長機会」と並ぶ4つの柱の1つであり、どれか1つで他をカバーできるものではありません。年商1〜10億円規模の中堅企業でも、市場水準の給与・適切な労働環境・成長機会の提供は前提条件です。その上で、やりがいが加わることで強い組織が完成します。
まとめ|やりがいは経営者が設計する
やりがいのある組織は、自然発生するものではなく経営者が意図して設計するものです。土台にあるのは「パーパスの明確化」と「個人の働く意義との一致」という2軸。経営者の最大の仕事は、自社のMVVを磨き込み、それが達成された世界の輝きをメンバーに語り続けることにあります。
同時に、メンバー一人ひとりの過去の歴史と未来の願いに耳を傾け、周囲からの承認や顧客からの感謝が本人に届く仕組みを作る――この地道な対話が、強い組織の土台を築きます。==同じ方向を向いて頑張れる仲間が集まる組織==は、経営者の言葉と対話の積み重ねからしか生まれません。

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