「現場の感覚では利益が出ているはずなのに、試算表の原価率が合わない」――製造業や工事業を中心に、こうした相談は非常に多く寄せられます。原因の多くは、会計の数字が間違っているのではなく、社内の原価管理に乗っていない原価があることにあります。本記事では、原価率が合わない原因の見つけ方と、原価率を実際に下げる打ち手の順番を、税理士の実務目線で解説します。
この記事の結論:原価率が合わない原因を探す場所は2つだけです。①会計上の原価項目が、社内の原価計算の項目にきちんと入っているか ②社内管理で使っている原価の単価が、現状の単価に反映されているか。そして原価率が毎月バラつく最大の原因は毎月の棚卸しをしていないことです。税務上は決算時だけで足りますが、棚卸しをしないということは、いちばん大切な粗利を管理しないということです。
Contents
なぜ社内の原価率と決算の数字が合わないのか
原価率が合わないという相談は、経営者が現場を分かっているからこそ出てくる悩みです。感覚がなければ、そもそもズレていることに気づけません。まずは、どのような形でズレが表面化するのかを整理します。
現場の感覚と試算表の原価率が一致しない
最も多いのが、「この案件はこれくらいの利益が出たはずだ」という現場の実感と、試算表に出てくる原価率が食い違うケースです。社内では材料費と外注費で原価を計算しているのに、会計上は運賃・外注加工費・現場の人件費なども原価に入っている、といった状態です。どちらかが間違っているのではなく、原価に含めている範囲が違うだけであることがほとんどです。ところがこの範囲のズレを放置すると、見積りの根拠が実態から離れ、受注するほど利益が薄くなる案件を、利益が出ていると誤認したまま取り続けることになります。原価率が合わないという違和感は、値決めの土台が揺らいでいるサインです。
毎月の原価率がバラついて基準が持てない
次に多いのが、月ごとの原価率が大きく上下して、どの数字を基準に判断すればよいか分からないという状態です。ある月は原価率60%、翌月は72%、その次は58%といった具合に振れると、改善したのか悪化したのかすら判断できません。この状態では、値上げの判断も、外注先の見直しも、根拠を持って決められません。経営者が「うちの数字は当てにならない」と感じ始めると、月次の数字を見る習慣そのものが失われていきます。原価率のバラつきは、単なる精度の問題ではなく、数字で経営判断をする習慣そのものを壊してしまうという点が深刻です。
決算になって初めて粗利のズレが分かる
3つ目は、期中はなんとなく順調に見えていたのに、決算で棚卸しをした途端に粗利が大きく動くケースです。決算整理で在庫を確定させると、それまでの月次で計上していた原価が一気に修正され、想定していた利益と着地が数百万円単位で変わることがあります。この段階で分かっても、打てる手はほとんど残っていません。決算の3ヶ月前に気づいていれば取れた対策も、決算後では次期の話になります。原価率のズレは、早く気づくほど打ち手の選択肢が多いという性質を持っています。
原価率が毎月バラつく3つの原因
原価率が毎月バラつく原因は、経験上ほぼ次の3つに集約されます。どれも会計の技術的な問題ではなく、月次業務の運用の問題です。
原因1:毎月の棚卸しをしていない
最大の原因がこれです。中小企業の多くは、毎月の棚卸しをしていません。税務上は決算時に実施していれば問題がないため、そこで止まってしまうのです。しかし棚卸しをしないと、その月に仕入れた金額がそのまま原価として計上され、実際には在庫として残っている分まで原価に入ってしまいます。仕入れの多い月は原価率が跳ね上がり、少ない月は下がる。これが原価率のバラつきの正体です。棚卸しをしていても、実態は概算で済ませているというケースも同じ結果になります。
原因2:締め支払いに対する発生主義の対応ができていない
2つ目は、支払いのタイミングで原価を計上してしまっている状態です。取引先ごとに締め日と支払日が異なるため、実際に使った月と、原価として計上される月がずれます。売上は当月に立っているのに、対応する原価が翌月に計上されれば、当月の原価率は不自然に低く、翌月は不自然に高く出ます。売上と原価が同じ月に対応していない限り、その月の原価率には意味がありません。
原因3:季節変動で原価に占める固定費の重さが変わる
3つ目は、季節変動が大きい業種で起こります。製造が多い月とほとんどない月があると、製造量が少ない月ほど、原価に占める固定費の重さが増します。同じ作り方をしていても、操業度が下がるだけで原価率は悪化します。この場合、原価率が悪化したという事実だけを見て現場を責めても意味がありません。季節変動がある会社では、操業度を踏まえた原価計算の細分化項目を入れて、変動費と固定費の影響を分けて見る必要があります。
なお、原価そのものの上昇を価格に転嫁できていない場合も、原価率は当然に悪化します。経済産業省・中小企業庁の調査(2026年3月時点)では、コスト要素別の価格転嫁率は原材料費55.7%、労務費50.0%、エネルギーコスト48.9%にとどまっています。上昇したコストのおよそ半分は自社が負担しているのが実情であり、原価率の悪化は管理の問題と価格の問題の両面から見る必要があります。
(出典)経済産業省・中小企業庁「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査の結果を公表します」
▶ 関連コラム:値上げの判断基準|失う客と残る利益(原価側ではなく価格側から粗利を改善する道)
監修税理士 塩谷宣弘の見解
原価計算で私が特に重要だと考えているのは、毎月の棚卸しをしっかり行い、原価率の推移を毎月および累計で見ることです。中小企業の多くは、毎月の棚卸しをされていません。税務上は決算のときにやっていれば問題ないからです。ただ、棚卸しをしないということは、つまりいちばん大切な粗利を管理しないということです。これは、ものすごく大きな機会損失を生んでいると考えたほうがよいと思います。私の経験の範囲では、棚卸しと原価をしっかり見ていない会社で、大きく利益が出ている会社はほとんどありません。(※統計ではなく、私自身が関与先を見てきた中での実感です)
✅ 自己診断:あなたの会社はいくつ当てはまりますか?
- 毎月の棚卸しをしていない(または概算で済ませている)
- 社内の原価計算に入れている項目を、会計の原価科目と突き合わせたことがない
- 見積りに使っている材料や外注の単価を、1年以上見直していない
- 月ごとの原価率が5ポイント以上振れることがある
- 原価率を単月では見ているが、累計の推移では見ていない
- 仕入先から相見積もりを取ったことが、ここ数年ない
- 作業にかかる標準的な時間を決めていない
3つ以上当てはまる場合、粗利が管理されないまま経営判断が行われている可能性があります。
原価のズレを見つける2つの探し方
社内の原価計算に落ちていない原価を探す場所は、実は2つしかありません。あちこちを調べる必要はなく、次の順番で確認すれば、ズレの正体はほぼ特定できます。
- 会計上の原価項目が、社内の原価計算の項目にちゃんと入っているかを確認する
- 社内管理で使っている原価の単価が、現状の単価に反映されているかを確認する
- ズレが見つかった項目を、金額の大きい順に並べる
- 金額の大きいものから順に、是正の手を打つ
探し方1:会計の原価項目が、社内の原価計算に入っているか
まず、決算書や試算表で原価に計上されている勘定科目を全部書き出し、社内の原価計算に同じ項目が入っているかを一つずつ突き合わせます。材料費と外注費だけで原価を組んでいる会社は非常に多く、運賃、外注加工費、消耗工具、現場担当者の人件費、機械のリース料といった項目が抜け落ちていることがあります。これらが抜けていると、社内の原価率は実態より低く出ます。その低い原価率を前提に見積りを作っていれば、案件ごとの採算判断が構造的に甘くなります。この突き合わせは、一度やれば以降は仕組みとして残るため、最初に取り組む価値が最も高い作業です。
探し方2:社内管理の単価が、現状の単価に反映されているか
次に、社内の原価計算で使っている単価が、いまの仕入価格・外注単価と一致しているかを確認します。数年前に作った単価表をそのまま使っている会社は珍しくありません。材料費や外注費が上がっているのに、社内の単価表が据え置かれていれば、原価率は必ず合わなくなります。そして厄介なことに、このズレは「現場が頑張っていないからだ」という誤った結論に結びつきやすい性質を持っています。実際には単価表が古いだけであり、現場の努力とは関係がありません。単価の更新は、正しい原価率を出すためだけでなく、現場に対する誤った評価を防ぐという意味でも重要です。
是正は「金額の大きいもの」から手をつける
ズレが複数見つかったとき、どこから直すかは金額の大きいものからと決めています。インパクトの大きいものから手をつけたほうが、労力に対する効果がはるかに大きいためです。ただし、現場サイドからは「昔からの慣習だから」「昔からの取引だから」という言い訳が必ずと言っていいほど出てきます。ここで引かないことが大切です。利益率の改善は至上命題であり、会社の存在価値や社員の給料を押し上げるいちばん大きな要素であることを理解してもらったうえで、聖域なく話をする必要があります。慣習を守ることと、会社と社員を守ることは、別のことです。
監修税理士 塩谷宣弘の見解
社内の原価計算に落ちていない原価を探すとき、私が見るのは2点だけです。会計上の原価項目が社内の原価計算の項目にちゃんと入っているか。そして、社内管理で使っている原価の単価が、現状の単価にきちんと反映されているか。是正するときは、金額が大きいものから手をつけます。現場からは「昔からの慣習だから」「昔からの取引だから」という言い訳が出てきますが、利益率の改善は至上命題であり、会社の存在価値や皆さんの給料を押し上げるいちばん大きなファクターであることを理解していただいたうえで、聖域なき話をする必要があると考えています。
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原価率を下げる打ち手と、実務での回し方
ズレを直して正しい原価率が出るようになったら、次は原価率そのものを下げる段階に入ります。打ち手には順番があり、この順で進めるのが最も効率的です。
| 順番 | 打ち手 | 見るもの |
|---|---|---|
| 1番目 | 適正な取引先を見つける/相見積もりを取る | いまの適正価格がいくらか |
| 2番目 | 標準時間との差を見つける | 本来かかる時間と実績の差 |
| 継続 | 毎月の推移と累計で原価率を見る | 改善が定着しているか |
打ち手1:適正価格の情報を集める(相見積もりを取る)
最初の打ち手は、相見積もりを取ることです。ここで誤解されやすいのですが、取引先を変える前提でなくてかまいません。相見積もりの本当の価値は、「今の適正価格がいくらぐらいなのか」という情報を集めること自体にあります。長く付き合っている仕入先の価格が適正かどうかは、比較する材料がなければ判断できません。情報を持ったうえで、いまの取引先と条件を話し合うという進め方でも十分に効果があります。長年の取引先を大切にすることと、価格の妥当性を確認することは両立します。
打ち手2:標準時間との差を見る
2つ目は、人件費・労働時間の側から原価を見る方法です。通常これくらいの時間で作れるはずのものに対して、実際にはどれくらいの時間がかかっているかを比べます。この差が、そのまま改善の余地です。標準時間を決めていない会社では、まず主要な製品や工程について「本来どれくらいで終わるはずか」を決めるところから始めます。適正な仕入交渉と、この人件費・労働時間の差の両方を見ていくと、想像している金額を大きく超える効果が出ることがあります。原価は材料費だけではない、という当たり前の事実に立ち返る作業です。
毎月の推移と累計で見る(月次で回す)
そして最も大切なのが、原価率を毎月の推移と累計の両方で見続けることです。単月の原価率は季節変動や工事の進捗で必ず動きます。累計で見ることで、その振れをならした実力値が見えてきます。私たちは顧問先の経営者と毎月、試算表を挟んで「計画とどれだけズレたか」「そのズレは棚卸しの精度なのか、単価なのか、操業度なのか」「次の四半期で何に着手するか」を1時間ほど議論しています。数字の報告を受ける時間ではなく、次の一手を決める時間として使っていただくためです。決算のときだけ原価を見る関係では、気づいたときには打てる手が残っていません。
▶ 関連コラム:運転資金の適正水準|利益が残らない理由(毎月の棚卸しが、そのまま在庫と資金繰りの管理につながる)
▶ 関連コラム:月次決算の活用法|経営判断に変える型(毎月の数字を判断に変える議論の進め方)
自社の労働生産性や収益性が、同じ規模・同じ業種の中でどのあたりに位置するのかは、公的な統計でも確認できます。中小企業白書では中小企業の労働生産性や稼ぐ力に関する分析が公表されており、自社の現在地を客観的に把握する出発点として使えます。
(出典)中小企業庁「中小企業白書」/業種別・規模別の売上高や利益の水準は財務省「法人企業統計調査」でも確認できます。
監修税理士 塩谷宣弘の見解
原価率を下げる打ち手として、私がまずお勧めしているのは適正な取引先を見つけること、相見積もりを取ることです。取引先を変える前提でなくてかまいません。「今の適正価格がいくらぐらいなのか」という情報を集めること自体に意味があります。そのうえで、標準時間との差を見ていただきたいと思います。適正な仕入交渉と、人件費・労働時間の差を見ることで、想像している金額を大きく超える効果が出ることがあります。原価率を毎月検討しない会社は本当にもったいない。そこにお宝ボックスがあります。
ここまでが、原価率のズレを見つけるうえでどの会社にも共通する考え方です。ここから先は、御社の試算表の原価科目と、社内で使っている原価計算資料・単価表を突き合わせないと、どこに何円のズレがあるかは特定できません。抜けやすい項目も、単価の古さも、業種と原価構造によってまったく異なるためです。
原価率が合わないことに関するよくある質問
毎月の棚卸しは、本当に必要ですか?
税務上は決算時に実施していれば問題ありません。ただし、毎月の棚卸しをしなければその月の粗利が正しく出ないため、月次の数字を経営判断に使うことができなくなります。棚卸しをしないということは、いちばん大切な粗利を管理しないということです。全品目を毎月数えるのが難しい場合は、金額の大きい主要品目だけを毎月、その他は四半期ごとといった形から始めるのが現実的です。
原価率が毎月バラつくのは、うちの業種だから仕方ないのでは?
季節変動が大きい業種では、操業度によって原価に占める固定費の重さが変わるため、原価率が動くこと自体は自然です。ただし「業種だから仕方ない」で終わらせると、改善の余地が見えなくなります。操業度を踏まえた原価計算の細分化項目を入れて、変動費の影響と固定費の影響を分けて見れば、業種特性による変動と、管理上の問題による変動を区別できます。
原価のズレは、どこから直せばいいですか?
金額の大きいものからです。ズレは複数見つかるのが普通ですが、すべてを同時に直そうとすると現場が回らなくなります。金額の大きい項目から順に手をつければ、少ない負荷で原価率への影響が実感できるため、社内の納得も得やすくなります。
相見積もりを取ると、長年の取引先との関係が悪くなりませんか?
取引先を変える前提でなければ、関係を壊す必要はありません。相見積もりの目的はいまの適正価格を知ることであり、その情報をもとに現在の取引先と条件を話し合うという進め方も十分に成り立ちます。相場を知らないまま長年同じ条件で取引を続けることのほうが、結果として双方にとって健全ではない場合もあります。
原価計算の仕組みづくりは、税理士に相談できますか?
できます。会計の原価科目と社内の原価計算を突き合わせる作業は、会計データと社内管理資料の両方を見られる立場だからこそ進めやすい領域です。ただし、税務申告のみを依頼している場合は対応範囲に含まれないこともあるため、月次でどこまで見てもらえるかを確認することをお勧めします。※対応範囲は契約内容によって異なるため、詳細は担当税理士にご相談ください。
まとめ|原価率のズレは「探す場所」が決まっている
原価率が合わないという悩みは、会計の技術的な問題ではなく、月次業務の運用の問題であることがほとんどです。探す場所は2つ――会計上の原価項目が社内の原価計算に入っているか、社内の単価が現状に反映されているか。そして毎月のバラつきの最大の原因は、毎月の棚卸しをしていないことです。
是正は金額の大きいものから。原価率を下げる打ち手は、①適正価格の情報を集める(相見積もり) ②標準時間との差を見るの順に進めます。そのうえで、原価率を毎月の推移と累計の両方で見続けることが、改善を定着させる唯一の方法です。原価率を毎月検討していない会社には、まだ手をつけていない粗利が残っています。
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関連コラム・お役立ちリンク
- 運転資金の適正水準|利益が残らない理由(毎月の棚卸しが在庫と資金繰りの管理につながる)
- 月次決算の活用法|経営判断に変える型(正しい数字を経営判断に変える議論の型)
- 試算表が遅い会社の立て直し方|基準は翌月末(そもそも月次が出ていないときの立て直し)
- 値上げの判断基準|失う客と残る利益(価格側から粗利を改善するもう一方の道)
- 労働分配率の目安|30〜50%の使い方(正しく出た粗利を人件費にどう配分するか)
- 税理士の選び方|事業計画を任せられるか(原価管理まで一緒に見てくれる相手かを見極める)
- 無料経営相談・経営診断のお申し込み(原価率のズレの当たりづけも承ります)