業績が落ち込んでいるのに役員報酬を下げられず、赤字を長引かせてしまう。そんな悩みを抱える中小企業経営者は少なくありません。実は、利益を継続して残せる会社ほど、必要な場面で役員報酬をためらわず減額しています。本記事では、役員報酬の減額が経営を守る理由と、下げる決断ができる経営者になるための考え方を、創業期に自ら50%減額を経験した税理士の視点から解説します。

この記事の結論:役員報酬の減額は、金額を削る「守り」ではなく、会社の収益体質を守る重要な経営判断です。鍵は、①役員報酬を「経営判断の変数」と位置づける、②業績の増減と同じレベルで報酬を上下できる前提で設計する、③利益が出ていない時は極限まで下げる覚悟を持つ、の3点にあります。業績に応じて役員報酬を下げられている会社で、赤字が継続する例はほとんど見られません。下げる決断ができるかどうかが、健全経営の分水嶺です。

なぜ役員報酬の減額は決断しにくいのか

役員報酬の減額は、頭では必要と分かっていても実行に移しにくい経営判断です。理由は金額の問題ではなく、心理と仕組みの問題にあります。まずは、年商1億円から10億円規模の経営者が減額をためらう典型的な理由を整理します。

役員報酬の減額を決断できず業績資料の前で思案する中小企業経営者
役員報酬の減額は必要と分かっていても踏み切りにくい

一度上げた報酬は下げにくいという心理

役員報酬は、一度引き上げると心理的に下げづらくなります。減額は自分と家族の生活水準を落とす決断と同義になり、家庭の理解も必要になるため、実際には下げられる局面でも据え置いてしまう経営者が多いのが実情です。

この「上げたら下げられない」という感覚は、業績が好調な時ほど強く働きます。利益が出ているうちに報酬を厚くしておきたいという気持ちは自然ですが、いざ業績が後退した時に減額の判断が遅れ、赤字を長引かせる隠れた要因になります。報酬は上げる時よりも下げる時にこそ経営者の胆力が問われます。

「万が一に備える」発想が高止まりを招く

役員個人で多めに報酬を取り、万が一に備えておきたいという考え方もあります。しかし役員個人で資金を持つことと、会社に資金を残すことは経営上まったく別の話です。会社の利益を役員報酬で抜き続けると、内部留保が積み上がらず、設備投資や採用といった次の一手にお金を回せなくなります。

「万が一」を理由に役員報酬を高止まりさせると、結果として会社の体力を奪う選択になりがちです。健全な会社は、利益が出た時に報酬を厚くするのではなく、業績に応じて報酬を増減させる柔軟性そのものを備えています。

税務ルールへの不安で判断が止まる

役員報酬は、定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与のいずれかに該当しないと、原則として損金算入が認められません。中小企業の多くは定期同額給与を選択しており、事業年度の途中で自由に減額できるわけではない、という点が判断を止める一因になります。

期中の減額は、経営状況の著しい悪化など限定的な要件を満たす場合に限られます。この不確かさから「下げていいのか分からない」と動けなくなる経営者もいますが、正しくは事業年度開始時の設計段階で減額を織り込むことで、税務リスクを避けながら柔軟な報酬運用が可能になります。※定期同額給与や期中改定の可否は個別事情で異なるため、詳細は担当税理士にご相談ください。

役員報酬を下げられない会社に共通する原因

役員報酬を減額できない会社には、いくつかの共通した構造があります。単に金額が高いのではなく、下げられる仕組みを最初から持っていないことが本質的な原因です。

業績悪化でも役員報酬を下げられず疲弊する中小企業の経営者
減額の仕組みがないと業績悪化がそのまま赤字につながる

業績連動の前提が設計に入っていない

固定金額で一度決めた役員報酬を、毎期そのまま据え置く経営者は多く見られます。しかし中小企業の業績は、大口取引先の動向・原材料費・人件費といった外部要因で年単位で大きく振れます。年商1〜10億円規模では、取引先1社の縮小だけで売上が2割減ることもあります。

固定報酬のまま業績が落ちれば、当然その年は赤字に転落します。役員報酬は「業績の増減と同じレベルで上下できる」前提で設計してこそ、会社を守る変数になります。この前提が抜けていると、決算期ごとに後手の判断を繰り返すことになります。

減額を「敗北」と捉えてしまう

役員報酬の減額を、経営の失敗や敗北のように受け止めてしまう心理も、判断を遅らせる大きな原因です。減額を恥と捉えると、業績が悪化しても意地で報酬を維持し、本来なら黒字にできた期を赤字で終えてしまうという本末転倒が起きます。

会社が大きくなる過程で、役員報酬を減らせば黒字になる会社は数多くあります。減額は撤退ではなく、収益体質を守るための前向きな一手です。この捉え方の転換ができないと、減額という有効な選択肢を自ら封じてしまうことになります。

交際費など「上げたまま」の経費が放置される

役員報酬だけでなく、交際費のように一度上げてしまった経費が見直されないまま固定化しているケースも多く見られます。好調期に増やした支出が、業績が落ちても惰性で続き、じわじわと利益を圧迫します。

これらの経費は一つひとつは小さく見えても、年間で積み上げれば数百万円単位になることも珍しくありません。役員報酬の減額を検討する際は、報酬単体ではなく、上げたままになっている経費全体を同時に棚卸しする視点が欠かせません。

減額の仕組みを持たないまま業績悪化を迎えると、経営者は打ち手のないまま赤字と資金繰り悪化を長引かせることになります。手元資金が細り、選択肢がさらに狭まる前に、自社の役員報酬と経費が業績に連動できる構造になっているかを一度点検してみませんか。

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  • 業績が落ちても役員報酬を変えていない
  • 報酬額の根拠を数字で説明できない
  • 会社に残すべき利益の目標を決めていない
  • 借入の返済額と報酬額の関係を把握していない
  • 報酬を下げる判断を先送りしている
  • 社員に賃上げを求められても原資がない
  • 役員報酬の変更ルールを理解していない

3つ以上当てはまる場合、役員報酬が業績と切り離され、経営の柔軟性を奪っている可能性があります。

役員報酬を減額できる経営体質のつくり方

役員報酬の減額を「いざという時にできる」状態にするには、日頃からの設計が重要です。ここでは、中小企業経営者が今日から取り入れられる3つのステップを紹介します。

財務レポートを基に役員報酬の減額余地を検討する中小企業の経営会議
業績を見ながら役員報酬の増減を判断する仕組みをつくる

Step1:役員報酬を「経営判断の変数」と位置づける

最初のステップは、役員報酬を経営者の生活費ではなく、経営判断の変数として捉え直すことです。生活費と割り切ると「絶対に下げられない固定費」になりますが、変数と捉えれば業績に応じて動かせる調整弁になります。

そのうえで、生活に最低限必要な額と、業績次第で上下させる額を頭の中で分けておきます。「下げる前提で上げる」という発想を持てば、好調時に報酬を引き上げても後退局面で柔軟に戻せます。報酬を決める段階で、あらかじめ減額シナリオまで描いておくことが第一歩です。

Step2:業績と同じレベルで増減できる設計にする

次に、役員報酬を業績の増減と同じレベルで動かせる設計にします。ひとつの目安として、私たちが顧問先に提案しているのが「営業利益+役員報酬」の合計額の10〜30%を役員報酬とする考え方です。この範囲に収めると相場感に近い水準に着地しやすく、会社にも適切な利益が残ります。

重要なのは、この基準を毎期の業績に合わせて見直すことです。前期の決算結果を見てから新年度の役員報酬を決めるサイクルを定着させれば、業績変動への対応力は大きく変わります。役員報酬は原則として事業年度開始から3カ月以内に決定するため、決算月の翌々月までに判断を終える運用を習慣化してください。

Step3:利益が出ない時は極限まで下げる覚悟を持つ

最後のステップは、利益が出ていない時に役員報酬を極限まで下げるという選択肢を本気で持つことです。この覚悟があるかどうかが、健全経営の分水嶺になります。減額に踏み切れない会社ほど、赤字や資金繰り悪化を長引かせる傾向があります。

一度でも大幅な減額を決断できた経営者は、次の業績変動局面でも同じ判断を再現できるようになり、会社の収益体質そのものが強くなっていきます。減額した分は会社のキャッシュとして残り、次の一手の原資になります。下げる覚悟は、会社と経営者自身の将来を守る備えでもあるのです。

具体例|創業2年目に50%減額した税理士の実体験

ここでは、私自身の経験と、数多くの中小企業を見てきた立場から感じている実務上のポイントをお伝えします。役員報酬の減額は、当事者として痛みを伴う判断だからこそ、経験に基づいてお話しできることがあります。

役員報酬の減額幅を試算する税理士の手元と電卓
減額は痛みを伴うが、会社を守るための現実的な選択肢になる

50%減額という苦しい決断が転機になった

私自身、創業期に役員報酬の設定で失敗した経験があります。2年目には50%減額という、心配で苦しい決断をしました。当時は不安の大きい判断でしたが、結果としてそれは会社を守るための正しい選択でした。

一度その経験を通じて「役員報酬は下げられる」という選択肢が自分の中に明確に位置づくと、その後の経営判断は格段に楽になります。減額を一度経験することが、経営者としての判断軸を強くします。下げる痛みを知っているからこそ、次からは冷静に、必要な時に必要なだけ動かせるようになるのです。

下げられている会社に継続的な赤字は見たことがない

数多くの会社の役員報酬を見てきて確信しているのは、利益が出ていない時に役員報酬を極限まで下げられている会社で、継続的に赤字が出続ける例をほとんど見たことがないという事実です。業績に応じて報酬をしっかり増減させている会社は、結果として収益体質が崩れにくいのです。

逆に、業績が悪化しても役員報酬を据え置き、交際費も削らずに走り続ける会社は、赤字が慢性化しやすい傾向があります。役員報酬を下げられるかどうかは、その会社が業績に真正面から向き合えているかを映す鏡でもあります。減額の選択肢を持つこと自体が、経営の健全性を支えています。

退社時のリスクを減らす報酬スタイルへ

現在の私は、万が一利益が出たとしても、自分の報酬をしっかり調整し、退社時のリスクを少しでも減らすスタイルに変化してきました。報酬を取れるだけ取るのではなく、会社の将来と自分の引き際まで見据えて金額を決めるという考え方です。

役員報酬や交際費のように、ついつい一度上げてしまったものをしっかり断捨離し、極限まで下げる決断ができる経営者こそが重要だと感じています。担当の税理士としても、この提案を必ず行うべきだと考えています。毎期の決算前に「上げたままの項目」を一つずつ問い直す習慣が、年間で見れば大きな利益改善につながります。

私たちは顧問先の経営者と毎月、試算表を挟んで「計画とどれだけズレたか」「次の四半期で何に着手するか」を1時間ほど議論しています。数字の報告を受ける時間ではなく、次の一手を決める時間として使っていただくためです。決算のときだけ数字を見る関係では、打てる手はどうしても限られます。

ここまでが、役員報酬の減額判断に共通する考え方です。ここから先は、御社の営業利益・借入返済額・今後の資金繰り見通しが分からないと、いくらまで下げるべきかの具体的な金額は出せません。※役員報酬の変更には税務上のルールがあります。詳細は担当税理士にご相談ください。

よくある質問(FAQ)

役員報酬は事業年度の途中で減額できますか?

原則として、定期同額給与は事業年度の途中で減額できません。例外として、職制上の地位変更や経営状況の著しい悪化など、限定的な事由が認められた場合に限り改定が可能です。業績悪化を理由とする期中の減額には客観的な根拠資料が必要となるため、安易に判断せず、必ず顧問税理士と協議のうえで進めてください。

役員報酬を減額すると会社にどんな影響がありますか?

役員報酬を下げると損金が減るため法人税の課税所得は増えますが、その分社会保険料や所得税・住民税の負担が軽くなる面もあります。さらに減額した分は会社のキャッシュとして残り、設備投資や運転資金、内部留保に回せます。短期的な手取りは減りますが、中長期では会社と経営者個人の財務基盤を強化する効果が期待できます。

役員報酬をどのくらいまで下げてよいですか?

明確な下限のルールはありませんが、生活に最低限必要な額を確保したうえで、業績に応じて調整するのが基本です。利益が出ていない局面では、健全経営を優先して極限まで下げる判断が有効な場面もあります。ただし極端な減額は生活や税務に影響するため、適切な水準は自社の状況を踏まえて顧問税理士と相談して決めることをおすすめします。

役員報酬はいつまでに決めればよいですか?

役員報酬は、事業年度開始から3カ月以内に株主総会の決議を経て決定するのが原則です。3月決算の会社であれば6月末までに新年度の金額を決め、その後は毎月同額で支払います。この期限を過ぎると損金算入の要件を満たせなくなるため、前期の決算結果を踏まえて、決算月の翌々月までに判断を終える運用を徹底してください。

まとめ|下げる決断ができる経営者が会社を守る

役員報酬を業績連動で運用し健全な財務体質を実現した中小企業の経営者
減額の覚悟が会社と経営者自身の将来を守る

役員報酬の減額は、単に金額を削る後ろ向きの行為ではなく、会社の収益体質を守る前向きな経営判断です。鍵は、報酬を経営判断の変数と位置づけ、業績と同じレベルで増減できる設計にし、利益が出ない時は極限まで下げる覚悟を持つことにあります。

業績に応じて役員報酬を下げられている会社で、赤字が継続する例はほとんど見られません。上げるのは簡単でも、必要な時に下げられるかどうかで会社の未来は大きく変わります。役員報酬や交際費といった「上げたまま」のものを定期的に断捨離し、業績連動で柔軟に運用する。下げる決断ができる経営者こそが、長く利益を残し続ける会社をつくります。

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監修者 Actvision税理士法人 代表社員税理士 塩谷宣弘

監修者

塩谷 宣弘|Actvision税理士法人 代表社員税理士/Actvision Consulting株式会社

28歳で税理士試験に合格し、KPMG税理士法人でM&Aタックスアドバイザリー・国際税務に従事。32歳でActvisionグループを創業し、銀行融資支援に特化して開業5年で従業員35名規模の税理士法人へと成長させる。自社の組織課題と再建を経験し、マネジメント改革で離職率・組織力・営業力を回復させた実績を持つ。現在は「中小企業経営者の唯一無二のパートナーになる」を理念に、理念経営・ビジネスモデル策定・経営管理・人事戦略・財務戦略を横断する中小企業特化のコンサルティングを提供している。

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最終更新:2026年8月