金利上昇の局面で「借入は最小限にしたい」と考える中小企業経営者は多いものです。しかし、私たちが顧問先で必ずお伝えしているのは「借りられるときに全力で借りておく」という鉄則です。本記事では、中小企業の資金繰りで本当に必要な発想と、金利コストを「保険料」として捉える考え方を税理士視点で解説します。

中小企業が資金繰りで陥りがちな悩み

資金繰りに悩む中小企業経営者
金利上昇局面でこそ資金繰り戦略の再点検が必要

金利上昇で借入を減らしたくなる

近年の金利上昇で、借入金利は驚くほど上がっています。金利コストを抑えたい経営者が借入を最小限にしようと考えるのは自然な感情ですが、これは中長期では大きなリスクを伴う判断になりかねません。

業績悪化時に借りられない経験がある

「業績が悪くなってから借りようとしても貸してもらえなかった」――この経験を持つ経営者は少なくありません。銀行は基本的に過去の決算で判断します。2期連続赤字や債務超過の状態では、再起の見込みがあっても貸出は難しいのが現実です。

キャッシュ不足で機動的な打ち手が打てない

手元資金が薄いと、設備投資・採用・M&A・新規事業など、攻めの経営判断ができません。資金繰りは守りだけでなく、攻めの経営の前提条件でもあります。

「借りられるときに借りない」リスクの正体

財務状況を分析する場面
業界特有のリスクは銀行が貸さない場面に直結する

全国的な危機(コロナ等)は例外的に貸出が緩む

コロナ禍では、保証協会の特別融資制度により、銀行が積極的に貸し出しを行いました。これは保証協会付き融資なら銀行はノーリスクであり、貸倒れ時に国が全額保証してくれる仕組みだったからです。逆に言えば、こうした全国的な危機がない限り、銀行のリスク許容度は限定的ということです。

業界特有のリスクには銀行は応じにくい

もし自社の業界だけが2年ほど不況に陥ったとき、銀行は貸してくれるでしょうか。個社・業界レベルの不振では保証協会の特別措置はなく、銀行は通常の融資基準で判断します。多くの場合、その時点では融資は厳しいのが現実です。

業績悪化後の融資申請は通らない

「これから1年は厳しい、会社が存続できるか分からない、でも頑張るので貸してほしい」――この申請に銀行が応じる確率は極めて低くなります。借入の必要性が高まる局面では、すでに借入は難しくなっているという構造的矛盾を理解しておく必要があります。

資金繰りで押さえるべき3つの原則

経営会議で資金繰りを議論する場面
借入余力は「保険料」として戦略的に確保する

原則1:借りられるときに全力で借りる

銀行取引の鉄則は「借りられるときにできるだけ多くしっかりと借りておく」こと。業績が良いとき、銀行が貸したいタイミングこそ、最大限借入余力を確保するチャンスです。これを逃すと、いざというときに資金調達ができません。

原則2:金利コストは「保険料」と捉える

例えば5,000万円を金利2%で借りた場合、年間100万円、月8万円ほどの金利コストが発生します。これを単純な「無駄なコスト」と捉えるか、「もしものときの資金保険料」と捉えるかで判断が変わります。会社の存続リスクを月8万円でヘッジできるなら、十分に合理的な投資と言えます。

原則3:借りた資金は預金として温存する

借り入れた現金で意味のない資産を買うのは絶対にご法度です。あくまでも預金として温存し、万が一のときの資金保険として機能させることが目的です。これによって企業の万が一対策ができ、メンバー全員を守ることが可能になります。

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中小企業経営者のための実務ポイント

銀行との融資交渉の場面
借入は「預金とのバランス」で評価される

「借入が多すぎる」と見られる心配は不要

借入を増やすと「借入過多」と見られないかを心配する社長は多くいらっしゃいます。しかし、多くの金融機関は「借入金 − 預金 = 実質借入」で会社を見ます。借入1億円・現金0円の会社と、借入5億円・預金5億円の会社では、後者の方が金庫として高く評価されるのが一般的です。借入額の絶対値だけで判断されることは少ないと理解しておきましょう。

業績が好調なときに信用力を最大化する

銀行は過去の決算状況をベースに融資判断を行います。だからこそ、業績が好調な決算期を経た直後が、最も借入を引き出しやすいタイミングです。==このタイミングを逃さず、運転資金+設備資金+万が一の保険分を一括で借りる==戦略が有効です。

借入と預金のバランスを定期的にチェックする

四半期ごとに「現在の借入残高/預金残高/実質借入」を可視化する習慣を作ってください。担当の税理士としても、資金繰り表の更新は経営者の最重要ルーティンの1つだと考えています。BS全体の健全性が見えるようになると、銀行交渉の主導権も握れます。

中小企業の資金繰りに関するよくある質問

借入は売上の何ヶ月分が目安ですか?

業種により異なりますが、月商の3〜6ヶ月分が一般的な水準です。製造業など設備投資が大きい業種では月商の1年分以上のケースもあります。重要なのは絶対額ではなく、預金とのバランス・実質借入比率・キャッシュフロー耐性です。

金利コストはどのくらいまで許容できる?

業績や利益率にもよりますが、営業利益の10〜15%程度に金利コストが収まっていれば許容範囲とされます。それ以上に膨らむ場合は、借入の使途や金利交渉の見直しが必要です。

保証協会付き融資とプロパー融資はどちらが先?

中小企業では保証協会付き融資から始めるのが基本です。銀行のリスクが低いため借りやすく、実績を作りやすい特性があります。実績を積んだ上で、プロパー融資(保証なし)にも挑戦する流れが王道です。

借入で得た資金は何に使うべき?

原則として事業性資産(売掛金・在庫・設備・人材)への投資と、万が一の備えとしての預金です。不要な不動産や福利厚生資産(リゾート会員権など)への投資は、資金繰り戦略の観点では非推奨です。※判断詳細は担当税理士にご相談ください。

まとめ|借入は会社と社員を守る保険

中小企業の資金繰りで最も重要なのは、「借りられるときに全力で借りておく」という発想の転換です。金利コストは「無駄」ではなく「会社と社員を守る保険料」。業績が好調な決算期こそ、最大限の借入余力を確保するチャンスです。借入残高の絶対値ではなく預金とのバランスで評価される現実を理解し、==万が一のときも企業を継続できる資金プールを意図的に作る==ことが、中堅成長企業の経営を支える土台になります。

資金繰りが安定し成果を出すチーム
潤沢な資金プールが攻めと守りの両立を支える

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