「人が定着しない」「採用してもすぐ辞める」――この悩みの根本に、経営者が気づきにくい原因があります。それは仕事で無理をさせていることです。本記事では、262の法則を踏まえた業務割り振りと、無理をさせないマネジメントが人材定着につながるメカニズムを税理士視点で解説します。
この記事の結論:業務の割り振りで陥りやすいのが、「できる人」に仕事が集中する構造です。組織はおおむね2:6:2に分かれますが、上位2割に負荷を寄せ続けると、最も辞めてほしくない人から離れていきます。必要なのは「①社員ごとの業務量を把握する ②できる人の仕事を仕組み化して移す ③無理をさせない前提で計画を立てる」の3点。無理をさせない設計こそが、人が定着し積み上がる組織をつくります。
Contents
人が定着しない悩みの構造
定着が安定しない悩みが常につきまとう
中小企業経営者にとって人材定着は永続的なテーマです。定着が安定している会社の多くは、人員的にも業務的にも比較的余裕があるケースが多いのが現実です。逆に、余裕がない会社は採用しても辞めるという悪循環に陥ります。
給与に応じた生産性を求めすぎる
給与に対して「あるべき生産性」を求めていくと、自然と給与に応じた業務構成を組むようになります。しかしこれが実際は無理をさせる結果につながり、人が定着しなくなる原因の一つです。
「無理させる=育てる」発想が抜けない
叩き上げの経営者ほど、「自分はこれだけやってきた、メンバーもやれるはず」という発想を持ちがちです。これが意図せぬ過負荷を生み、結果として離職を増やします。
無理をさせてしまう原因
叩き上げ経営者の「必ずできる」マインド
0から叩き上げてきた経営者の累計として、「必ずできる」という機会マネジメントが強くなりすぎて無理をさせてしまう傾向が見られます。これは反省点として多くの経営者が抱えるテーマです。
262の法則を冷静に見ていない
組織は常に262の法則で動きます。優秀な2割、どちらでもない6割、ついていけない2割という構造です。優秀な2割が組織を引っ張っていく一方、残り8割に同じレベルを求めると無理が生じます。
実力差の冷静な把握ができていない
経営者と一般メンバーの実力差を冷静に把握できないと、無意識のうちに自分基準で業務を割り振ります。もともと社長自身が超優秀層であるような経歴をたどっている経営者は、逆にこの実力差を理解しているため、無理をさせない判断ができることが多いのです。
✅ 自己診断:あなたの会社はいくつ当てはまりますか?
- 社員ごとの業務量を把握していない
- 特定の社員に業務が集中している
- 残業時間を部署単位でしか見ていない
- 業務の割り振りを現場の判断に任せきりにしている
- 「できる人」に仕事が寄る構造を放置している
- 無理をさせている自覚がないまま人が辞めている
- 業務量と人員のバランスを計画に落としていない
3つ以上当てはまる場合、特定の社員の負荷で成り立つ危うい体制になっている可能性があります。
監修税理士 塩谷宣弘の見解
これは私自身の反省点です。私のようにゼロから叩き上げてきた経営者は、「必ずできる」という気合のマネジメントが強くなりすぎて、無理をさせてしまう。無理をさせようとしてしまう。この反省が、私には多くあります。逆に、もともと社長自身が超優秀層の経歴を歩んでこられた場合は、自分とメンバーの実力差を冷静に分かっているため、無理をさせないという判断ができているケースも多いのです。組織は常に262の法則で、2割の優秀層が残りを引っ張る傾向にあります。そこを冷静に理解して、無理をさせずに業務を割り振ることが重要になります。
▶ 関連コラム:人が辞めない会社づくり|中小企業の人材定着の本質(無理をさせないことが、そのまま定着につながる理由)
無理をさせない業務割り振りの3つの原則
- 262の法則を踏まえた業務設計にする(全員を優秀層の前提で設計しない)
- 実力に応じた業務割り振りを徹底する(給与から逆算して詰め込まない)
- 人事評価制度で公平性を担保する(不平等に見えないようにする)
原則1:262の法則を踏まえた業務設計
組織を262で捉え、優秀な2割に背伸びの業務、6割に成長余地のある業務、下位2割には確実にこなせる業務を割り振ります。全員に同じレベルを期待しないことが、定着の鉄則です。
原則2:実力に応じた業務割り振りを徹底
人が安定していく会社の特徴は、その人の実力に応じた業務割り振りをしている==点にあります。端から見ると「人が安定しているから余裕がある」ように見えますが、実は逆で「無理をさせない設計をしているからこそ人が溜まっていく」のです。
原則3:人事評価制度で公平性を担保
無理をさせない設計は、優秀層から見ると不平等に感じられるリスクがあります。それを防ぐために、人事評価制度で「実力に応じた業務と評価」をセットで設計することが必要です。
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中小企業経営者のための実務ポイント
経営者自身の経歴から「自分基準」を点検する
自分が叩き上げか、超優秀層からの出自かで、メンバーへの期待値の癖が違います。自分の経歴起点の業務基準が、メンバーに過剰なプレッシャーになっていないかを四半期ごとに点検してください。
業務難易度マップを作る
業務を「初級・中級・上級・経営判断」レベルに分類し、誰がどのレベルを担当しているか可視化します。これによって、特定メンバーへの過負荷や、能力に対して低すぎる業務担当の問題が見えるようになります。
(出典)産業別の入職率・離職率は 厚生労働省「雇用動向調査 結果の概況」で、業種別・規模別の人件費水準は 財務省「法人企業統計調査」で確認できます。
監修税理士 塩谷宣弘の見解
ここは誤解されやすいところなので、はっきりお伝えします。端から見ると「人が安定しているから業務に余裕が出ている」ように見えるかもしれません。ですが実際は逆です。無理をさせない割り振りをしているからこそ、人が溜まっていくのです。給与に対してあるべき生産性を求めようとすると、どうしても給与に応じた業務構成になります。ところがそれをやると、実際には無理をさせることになり、定着しなくなる。この順番を取り違えないことが、いちばん大事だと思っています。
▶ 関連コラム:労働分配率の目安|30〜50%の使い方(人件費の総枠を、粗利からどう決めるか)
定着率と業務難易度の相関を見る
担当の税理士として、定着率の高い顧問先には「無理をさせない業務設計」が共通項として見えます。短期の生産性を追いすぎず、中長期の定着を優先する判断が、結果として最強の利益体質を作ります。
私たちは顧問先の経営者と毎月、試算表を挟んで「計画とどれだけズレたか」「次の四半期で何に着手するか」を1時間ほど議論しています。数字の報告を受ける時間ではなく、次の一手を決める時間として使っていただくためです。決算のときだけ数字を見る関係では、打てる手はどうしても限られます。
ここまでが、業務の割り振りに共通する考え方です。ここから先は、御社の業務量と人員構成が分からないと、誰にどこまで任せられるかの適正ラインは引けません。適正な業務量は、粗利目標と人員数から逆算して初めて決まるためです。
仕事で無理させないことに関するよくある質問
262の法則の下位2割は切るべき?
切ることは慎重に判断すべきです。下位2割の存在が中間6割の安心感を支える側面があり、機械的に切ると組織のバランスが崩れます。本人と組織にとって最適な業務を見つける方向で考えるのが基本です。
優秀な2割が不公平を訴えてきたら?
業務量だけでなく評価・処遇で差別化することで公平感を担保します。優秀な2割には背伸びの業務と高い処遇、中間層には標準業務と標準処遇、下位層には確実な業務と相応の処遇――この設計が組織の納得感を生みます。
無理させないと成長しないのでは?
「適度な背伸び」と「過負荷」は別物です。本人の現在の実力より少し上の業務を渡すのが成長を促す適切な負荷。実力より大きく上は「無理」となり、離脱を招きます。
経営者自身が変わるべきポイントは?
叩き上げ経営者は「自分にできたからメンバーにもできる」前提を一度手放すこと。超優秀経営者は「自分とメンバーの実力差は当然」と認識しているケースが多く、そこから学ぶ価値があります。
まとめ|無理させない設計が人を溜める
仕事で無理をさせると、短期的には生産性が出ても、中長期では人が定着せず、結果として組織は崩れます。262の法則を踏まえ、実力に応じた業務割り振りをし、人事評価で公平性を担保する――この基本動作が、定着率を大きく押し上げます。無理をさせないからこそ人が溜まり、それが余裕を生み、さらに人が定着するという好循環が中堅成長企業を支えます。経営者自身の経歴から来る業務基準の癖を点検することが、その第一歩です。
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