役員報酬をいくらに設定すべきか、毎期の決算前に頭を悩ませている中小企業経営者は多いのではないでしょうか。相場や適正額の感覚がつかめず、一度上げたら下げづらいという声もよく耳にします。本記事では、役員報酬の決め方として営業利益との連動方式を軸に、健全経営につながる3つの原則と、実務で押さえるべき判断ポイントを税理士の視点から解説します。

役員報酬の決め方で経営者が抱えがちな悩み

役員報酬は経営判断の中でも特に孤独な意思決定になりやすい領域です。社員には相談できず、税理士に質問しても「決算月までに金額を決めてください」と言われるだけで具体的な考え方は出てこない、というケースも珍しくありません。まずは中小企業経営者が陥りやすい3つの悩みを整理します。

業績資料を前に役員報酬の決め方を考える経営者
業績資料を前に役員報酬の決め方を考える経営者

相場感が分からず適正額を決めかねる

年商1億円から10億円規模の中小企業では、役員報酬の相場が公開されている統計データはほとんどなく、他社の数字を直接知る機会も限られます。同業者の集まりで報酬額を話題にする経営者は稀で、結果として「自分の役員報酬は妥当なのか」という問いに自信を持って答えられないまま毎期を過ごす経営者が多いのが実情です。

特に2代目・若手後継者の場合、先代の役員報酬をベースに据え置くケースも見受けられますが、業績フェーズや経営体制が変わっているのに金額だけを引き継いでしまうと、現在の収益力と合わない設計になりがちです。相場の数値だけを追うのではなく、自社の利益構造から逆算する発想が、適正額を決めるうえでの第一歩になります。

一度上げた報酬を下げられない

役員報酬は法人税法上、原則として事業年度開始から3カ月以内に決定し、その後は毎月同額で支払う定期同額給与が基本ルールです。途中で増減させると損金算入できない部分が出るため、「上げたら下げにくい」という構造上の制約があります。

加えて心理的な障壁も大きく、一度引き上げた役員報酬を翌期に減額することは「自分の生活水準を引き下げる決断」と同義になり、家族の理解も必要になります。実際には減額できる場面でも、上げ続けてしまう経営者が少なくありません。これが利益を圧迫する隠れた要因になっているケースは想像以上に多くあります。

業績連動の視点が欠けたまま固定化している

固定金額として一度設定した役員報酬を、毎年そのまま据え置く経営者は多く見られます。しかし業績は毎年変動するため、固定報酬を続けていると、利益が出た年は税負担で利益が削られ、利益が出ない年は会社のキャッシュを圧迫するという二重の不利益を招きます。

中堅企業の成長フェーズでは特に、売上・粗利・固定費のバランスが年単位で動きます。業績の波に合わせて役員報酬を調整できる前提で設計しておかないと、決算期ごとに「今年は赤字確定」「来期はもっと厳しい」と後手の判断を繰り返すことになります。

役員報酬が経営を圧迫する原因

役員報酬が経営を圧迫する背景には、決定プロセスそのものの設計不足があります。単に金額が高いから問題なのではなく、変動できる仕組みを持っていないことが本質的な原因です。

業績悪化に頭を抱えるシルエットの中小企業経営者
業績悪化に頭を抱えるシルエットの中小企業経営者

業績変動への対応設計が組み込まれていない

中小企業の業績は、大口取引先の動向・原材料費・為替・人件費といった外部要因で大きく振れます。年商1〜10億円規模では1社の取引縮小だけで売上が2割減るケースもあり、その年に固定的な役員報酬を払い続ければ、当然ながら赤字に転落します。

問題は、決算月の2カ月前になって慌てて「来期はどうしよう」と考えるパターンが多いことです。役員報酬は事業年度開始3カ月以内に決めなければならないため、前期の決算結果を見てから新年度の役員報酬を判断するサイクルを定着させるだけでも、業績変動への対応力は大きく変わります。

「万が一に備える」発想が硬直化を招く

役員報酬を多めに取って手元資金を確保しておきたいという考え方は、創業期の経営者には特に強く現れます。しかし、役員個人で資金を持つことと、会社で資金を蓄えることは経営上は別の話です。会社の利益を役員報酬で抜き続けると、内部留保が積み上がらず、設備投資や採用といった次の打ち手にお金を回せなくなります。

健全な経営をしている中小企業は、利益が出ている時に役員報酬を厚くするのではなく、業績に応じて報酬を増減させる柔軟性を確保しています。「万が一」を理由に役員報酬を高止まりさせることは、結果として会社の体力を奪う選択になりがちです。

役員報酬の損金算入ルールへの理解不足

役員報酬は定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与のいずれかに該当しないと、原則として損金算入が認められません。中小企業の多くは定期同額給与を選択していますが、事業年度途中での減額には経営状況の著しい悪化など限定的な要件があります。

このルールを把握しないまま「業績が悪いから来月から半分にしよう」と判断すると、税務上は損金不算入となり余計な法人税負担が発生する恐れもあります。役員報酬の設計を見直す際は、必ず顧問税理士と相談しながら、税務上のリスクを織り込んで判断することが重要です。※詳細は担当税理士にご相談ください。

役員報酬の決め方|健全経営につながる3つの原則

ここからは実際にどう決めればよいか、中小企業経営者が今日から使える3つの原則を紹介します。どれも難しいテクニックではなく、業績との連動性を持たせるための考え方です。

業績レポートを見ながら役員報酬を議論する経営者と税理士
業績レポートを見ながら役員報酬を議論する経営者と税理士

営業利益+役員報酬の10〜30%を基準にする

私たちが顧問先で役員報酬の相談を受ける際、ひとつの目安として提案しているのが、「営業利益+役員報酬」の合計額の10〜30%を役員報酬として設定するという考え方です。たとえば営業利益と役員報酬を足した金額が5,000万円であれば、役員報酬は500万円〜1,500万円のレンジに収めるイメージです。

このレンジ内に収めると、結果として相場感に近い金額に着地することが多く、会社にも適切な利益が残ります。10%に近い設定は内部留保を厚くしたい成長フェーズに、30%に近い設定は安定収益期に、というように経営戦略と連動させて決めると判断軸が明確になります。

業績に応じて増減できる前提で設計する

役員報酬を決めるうえで最も大切なのは、金額そのものよりも業績の増減と同じレベルで報酬を変動させられるかという点です。会社が大きくなる過程で、役員報酬を減らせば黒字になる会社は実は数多くあります。だからこそ、業績に応じて上げた役員報酬を、必要な場面でしっかり減額する決断ができるかどうかが、経営者にとって重要な要素になります。

「下げる前提で上げる」という考え方を持っておけば、業績好調時に役員報酬を引き上げても、後退局面で柔軟に対応できます。報酬決定の段階で減額シミュレーションも同時に行うことを習慣にすると、判断のスピードと精度が大きく改善します。

必要時には極限まで下げる覚悟を持つ

利益が出ていない時には、役員報酬を極限まで下げるという選択肢を本気で持っているかどうかが、健全経営の分水嶺になります。利益が継続的に出せないと悩む会社の多くは、役員報酬の減額に踏み切れず、結果として赤字や資金繰り悪化を長引かせています。

逆に、業績悪化時に役員報酬を躊躇なく下げられる経営者の会社では、継続的に赤字が出続けるケースをほとんど見たことがありません。役員報酬は経営者の生活費ではなく、経営判断の変数として位置づけることで、会社全体の収益体質を守ることができます。

【無料経営相談のご案内】 役員報酬の設計や見直しでお悩みの方は、当事務所の無料経営相談をご活用ください。年商1〜10億円規模の中小企業経営者に対し、税務・財務の両面から最適な役員報酬の決め方をご提案します。

中小企業経営者のための実務ポイント

ここでは、私たちが実際の顧問先支援の現場で見てきた事例と、私自身の経験を踏まえた実務上の判断ポイントをお伝えします。

役員報酬の見直しを話し合う経営者と税理士
役員報酬の見直しを話し合う経営者と税理士

利益が継続的に出ない会社に共通する傾向

長年さまざまな中小企業を見てきて感じるのは、利益が出ない時に役員報酬を下げられている会社は、利益が継続して出ない状況に陥りにくいという事実です。逆に、業績が悪化しているにもかかわらず役員報酬を据え置く、あるいは交際費を削らずに走り続ける会社は、赤字が慢性化しやすい傾向があります。

業績悪化局面では「役員報酬を下げる」という選択肢を持っているかどうかが、その後の経営回復スピードに大きく影響します。極限まで下げる判断が一度でもできた経営者は、次の業績変動局面でも同じ判断を再現できるようになり、会社の収益体質そのものが強くなっていきます。

創業期の役員報酬設計失敗と50%減額の実例

私自身、創業期に役員報酬の設定で失敗した経験があります。2年目には50%減額という非常に苦しい決断をしましたが、結果としてそれは会社を守るための正しい判断でした。一度その経験を通じて「役員報酬は下げられる」という選択肢が自分の中に明確に位置づくと、その後の経営判断は格段に楽になります。

現在は、万が一利益が出たとしても、自分の報酬をしっかりと調整し、退社時のリスクを少しでも減らすスタイルに変化しています。「下げる経験」を一度持つことが、経営者としての判断軸を強くする――これが私自身が身をもって学んだことです。

役員報酬・交際費の「断捨離」を進める

役員報酬や交際費のように、ついつい一度上げてしまったものを、しっかりと断捨離し、極限まで下げる決断ができる経営者こそが非常に重要な経営者だと私は感じています。担当の税理士としても、この提案を必ず行うべきだと考えています。

具体的には、毎期の決算前に「上げたままにしている経費項目」をリストアップし、ひとつずつ「本当に必要か」を問い直す習慣を作ることです。役員報酬・交際費の見直しは、その会社の経営姿勢そのものを映す鏡になります。小さな金額の積み重ねが、年間で見れば数百万円単位の利益改善につながります。

役員報酬の決め方に関するよくある質問

役員報酬はいつまでに決めるべきですか?

役員報酬は、事業年度開始から3カ月以内に株主総会の決議を経て決定するのが原則です。たとえば3月決算の会社であれば、6月末までに新年度の役員報酬を決め、その後は毎月同額で支払う必要があります。この期限を過ぎると損金算入の要件を満たせなくなるため、決算月の翌々月までには判断を完了させる運用を徹底してください。

役員報酬は事業年度の途中で変更できますか?

原則として、定期同額給与は事業年度の途中で変更できません。例外として、職制上の地位変更や経営状況の著しい悪化など、限定的な事由が認められた場合のみ改定が可能です。業績悪化を理由とした減額には客観的な根拠資料が必要となるため、安易な期中変更は避け、必ず顧問税理士と協議のうえで判断してください。

役員報酬を下げると会社にどんな影響がありますか?

役員報酬を下げると、会社の損金が減るため法人税の課税所得が増えますが、その分社会保険料や所得税・住民税の負担が軽くなるメリットもあります。さらに、減額した分は会社のキャッシュとして残るため、設備投資や運転資金、内部留保の積み増しに回せます。短期的な手取りは減りますが、中長期では会社と経営者個人の財務基盤を強化する効果があります。

役員報酬の相場はどの程度ですか?

年商1〜10億円規模の中小企業では、「営業利益+役員報酬」の合計額の10〜30%を役員報酬とするケースが多く、結果として相場感に近い水準に着地することが一般的です。たとえば営業利益と役員報酬の合計が3,000万円であれば、役員報酬は300万〜900万円のレンジが目安となります。業界・業績フェーズ・株主構成によって幅があるため、自社に最適な水準は顧問税理士との対話で決めることをおすすめします。

まとめ|業績に応じて変動できる役員報酬設計を

役員報酬の決め方は、単なる金額設定の問題ではなく、経営者としての判断軸を映し出す経営行為です。「営業利益+役員報酬」の10〜30%という基準を入口にしながら、最も大切なのは業績の増減と同じレベルで役員報酬を変動させられる設計にしておくことです。

業績好調時に上げ続けるのは簡単ですが、必要時に下げる覚悟を持てるかどうかで、会社の収益体質は大きく変わります。役員報酬・交際費といった「上げたまま」のものを定期的に断捨離し、業績に応じて柔軟に変動させる経営スタイルを確立することが、中堅成長企業が長く利益を残し続けるための鍵となります。役員報酬を経営判断の変数として扱う――この発想の転換が、健全経営への第一歩です。

健全な経営体制を実現した中小企業のチーム
健全な経営体制を実現した中小企業のチーム

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