決算書の資産の部に「役員貸付金」が計上されたまま、毎年そのまま持ち越されている——この状態に不安を感じながら、何から手をつければよいか分からないという経営者は少なくありません。本記事では、銀行が役員貸付金の何を見ているのか、いくらまでなら許容されるのか、そして減らすために今日から着手できる手順を、融資支援歴12年の税理士の実務目線で解説します。
この記事の結論:銀行が見ているのは役員貸付金が「あること自体」ではなく、借入との因果関係です。もっとも問題視されるのは銀行から借りたお金がそのまま役員貸付金に流れている形で、逆に法人成りに由来し少しずつ減っているなら大きな問題にはなりません。「いくらまでなら大丈夫」という目安はありません。減らす方法は役員報酬を増やす一択で、その前にまず口座とカードを個人用・法人用に分けるところから始めます。
Contents
決算書に「役員貸付金」が残っていませんか
役員貸付金は、会社が社長個人に貸しているお金です。会社から見れば資産、社長から見れば借金になります。決算書のうえでは資産として並ぶため、一見すると問題がなさそうに見えます。しかし銀行がこの科目をどう読むかを知ると、見方が変わります。
借りたお金が、社長個人に流れているという形
銀行がもっとも問題視するのは、銀行から借りたお金がそのまま役員貸付金に流れている形です。銀行の立場で読むと、こういう解釈になります。会社に貸したお金を社長に横流しして、社長は会社のお金を使うことに何のためらいもない。だからあまり信用できない、と見られます。設備や仕入れのために貸したはずの資金が、事業ではなく個人へ向かっている——この一点で、返済能力の話とは別に「信用」の評価が下がります。数字の良し悪し以前の問題として扱われるため、影響は小さくありません。
「いくらまでなら大丈夫」という目安はない
よくいただく質問が「何百万円までなら問題になりませんか」というものです。これについては、はっきりお答えできます。いくらまでなら問題にならないという目安はありません。金額の線引きがあるわけではなく、個人と法人をしっかり区別できているかどうかがすべてだからです。必要な資金があるなら、貸付という形ではなく役員報酬を増やしてきちんと受け取るのが本来の姿です。目安を探すよりも、一つのけじめとして捉えたほうが、後々楽になります。
決算書の見え方が、次の融資の条件を決める
銀行の融資判断は、原則として決算書の数字で行われます。担当者との関係や説明の丁寧さで補える部分はありますが、土台になるのは提出した決算書です。役員貸付金は、その決算書のなかで「借りた資金がどこへ行ったか」を最も分かりやすく示してしまう科目です。だからこそ、金額の大小より先に「なぜここにあるのか」を説明できる状態にしておく必要があります。説明できない残高が毎年積み上がっていくことが、いちばん避けたい状態です。
▶ 関連コラム:銀行が見るポイント|実質借入と債務償還年数(銀行が決算書を見る順番と、借りた資金の行き先という論点)
銀行が見ているのは「あること」ではなく因果関係
ここが本記事のもっとも大事な部分です。役員貸付金が「あること自体」が問題なのではありません。見られているのは因果関係です。同じ金額の残高であっても、成り立ちによって評価はまったく変わります。
見られている3つのポイント
銀行が役員貸付金を見るとき、実務上は次の3点を確認していると考えてください。
| 確認されること | どう読まれるか |
|---|---|
| 借入をした事業年度に、役員貸付金が増えているか | 借りた資金が個人へ流れた可能性を疑われる |
| 銀行から借りた直後に、役員貸付金が増えていないか | 時期が一致するほど、横流しと受け取られやすい |
| 残高が年々増えているか、それとも減っているか | 方向が改善なら評価は大きく変わる |
この3点は、いずれも残高ではなく「動き」を見ていることに注目してください。だからこそ、いま残高が大きい会社にも打ち手があります。方向を変えることが、金額を一気に消すことよりも先に効きます。
法人成りに由来し、少しずつ減っているなら大きな問題にはならない
実務でよくあるのが、個人事業主から法人成りしたときに発生した役員貸付金です。個人と法人の資産の整理が完全にできないまま法人化すると、差額が役員貸付金として残ることがあります。この場合、その後少しずつ減っているのであれば、銀行はそれほど大きな問題として扱いません。理由は明確で、成り立ちが説明でき、かつ改善の方向に動いているからです。大切なのは、説明できる由来と、減っているという方向の2つです。この2つが揃っていれば、残高があること自体で融資の話が止まることは通常ありません。
逆に、年々増えている/借入のタイミングで増えた場合
問題になるのはこちらです。残高が年々増えている、あるいは借入のタイミングで増えている場合は、かなり大きな問題として捉えられます。場合によっては、厳しい状況に陥ることもあります。増え続けているという事実は、「個人と法人のお金の区分ができていない状態が、いまも続いている」という意味に読まれるためです。改善の意思が見えないと判断されると、新規の融資はもちろん、既存の取引条件についても慎重な扱いを受けることがあります。見られているのは残高の大きさではなく、増えているか減っているかという方向です。
なぜ「信用できない」という評価につながるのか
もう一歩踏み込みます。銀行が気にしているのは、突き詰めるとお金の使い方に対する経営者の姿勢です。会社の資金と個人の財布が同じものとして扱われているなら、貸したお金が事業に使われる保証がないと考えるのは自然なことです。逆に言えば、区分がきちんとできている会社は、それだけで「この会社は事業のためにお金を使う」という前提で見てもらえます。役員貸付金の話は、税務上の論点である以上に信用の問題として捉えるのが実務的です。なお、税務上の取扱い(認定利息など)については個別の判断が必要になるため、詳細は担当税理士にご確認ください。
監修税理士 塩谷宣弘の見解
私が社長にお伝えしているのは、「いくらまでなら問題にならないという目安はありません。ここは一つのけじめだと思っていただいたほうが、後々楽になります」ということです。金額の線を探しても答えは出ません。それよりも、借入をした年度に役員貸付金が増えていないか、借りた瞬間に増えていないか——私が決算書で確認しているのは、この因果関係です。法人成りのときに発生して、その後少しずつ減っているという形なら、私はそれほど大きな問題としては見ません。逆に年々増えているなら、そこから先に手をつけます。
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自己診断:会社と個人のお金は分かれていますか
役員貸付金が増える会社には、必ず共通の入口があります。次の項目に、いくつ当てはまるかを見てみてください。
✅ 自己診断:あなたの会社はいくつ当てはまりますか?
- 会社の口座と個人の口座を、用途で明確に分けていない
- クレジットカードを、個人用と法人事業用に分けていない
- 法人カードが使えない取引先の支払いを、個人カードでそのまま立て替えている
- ETCなどの口座引き落としの引落先が、個人と会社で混ざっている
- 役員貸付金の残高が、この3期で増えている
- いまの残高がなぜ発生したのかを、経緯として説明できない
- 借入をした年度に役員貸付金が増えたことがあるが、その理由を確認していない
3つ以上当てはまる場合、決算書が銀行から信用を得にくい形になっている可能性があります。
役員貸付金を減らす手順
ここからが実務です。順番を間違えないことが大切で、「減らす」より先に「増えない状態を作る」ところから入ります。
減らす方法は「役員報酬を増やす」一択
結論から申し上げます。役員貸付金を減らす方法は、役員報酬を増やして、そこから返していくという形しかありません。それ以外の方法はないとお考えください。社長が個人として生活に必要な資金があるなら、会社から借りるのではなく、報酬として正当に受け取り、そこから返済に充てるのが唯一の道筋です。もちろん役員報酬を増やせば社会保険料や個人の税負担も動きますので、会社に残す利益とのバランスを見ながら決める必要があります。ここは来期の計画から逆算して設計する領域です。※役員報酬の変更には時期と手続きの要件がありますので、実行の際は担当税理士にご相談ください。
▶ 関連コラム:社長の給料の決め方|会社に残す額(来期の計画から必要利益と役員報酬を逆算する手順)
最初にやる4つ|この順番で着手する
会社と個人のお金が混ざっている会社に、私たちが最初にやっていただくのは次の4つです。順番も含めて、この形をおすすめしています。
- 会社の口座と個人の口座を明確に分ける——どちらから何を払うかを決め、混ぜないところから始めます。
- クレジットカードを、個人用と法人事業用に明確に分ける——支払いの入口を分けると、後から仕分ける作業がなくなります。
- 1枚で対応しきれない場合や法人カードが使えない取引先がある場合も、その分を含めて法人カードを使う形にする——例外を残すと、そこから崩れます。
- ETCその他の口座引き落としも、引落先を区別する——見落とされやすいのがここです。
この4つは、今日から着手できる作業です。特別な資金も、大きな決断も要りません。それでも効果は大きく、これをやるだけで役員貸付金が新たに増える経路がほぼ塞がります。逆に言えば、ここを整えないまま残高だけを返済しても、翌期にまた増えます。減らす作業より先に、増えない状態を作ってください。
「けじめ」として捉えると、判断が早くなる
役員貸付金の話は、金額の交渉ではありません。会社と個人を分けるという、経営者としての線引きの問題です。この捉え方に立つと、判断がとても早くなります。「いくらまでならいいのか」「他社はどうしているのか」を調べる時間が不要になるからです。分ける、以上——という単純な結論に到達できます。そしてこの線引きは、融資の場面だけでなく、後述する個人保証や事業承継の局面でも同じように効いてきます。早く着手した会社ほど、選べる選択肢が多くなります。
実務ポイント|銀行の見方が変わるまでに何をするか
最後に、実際の進め方をお伝えします。ここが本記事でもっとも実務的な部分です。
借入金と役員貸付金の推移を、並べて見る
まずやっていただきたいのは、直近3〜5期の借入金残高と役員貸付金残高を、年度ごとに並べることです。表にするだけで構いません。並べると、次のどちらであるかが一目で分かります。借入が増えた年に役員貸付金も増えているのか、それとも借入とは無関係に増減しているのか。前者であれば、その年に何があったかを必ず確認してください。設備資金として借りたお金の一部が個人の支出に回ったのであれば、それは事実として把握し、今後は起こらない形を作る必要があります。銀行に説明を求められる前に、自社が経緯を把握しておくことが最大の備えになります。
この論点は、個人保証と事業承継にも同じ形で続く
役員貸付金を整理する意味は、次の融資だけにとどまりません。社長の個人保証を外す話も、後継者へ事業を引き継ぐ話も、「法人と個人が分かれているか」という同じ論点の上に乗っています。経営者保証をめぐる金融機関の取組みや事例は金融庁が、制度面の情報は中小企業庁が、それぞれ公表しています。自社の自己資本比率や借入依存度が同規模・同業種と比べてどのあたりにあるかは財務省の法人企業統計調査で確認できます。いずれにしても、役員貸付金が増え続けている状態のままでは、これらの話を前に進めることが難しくなります。順番として、まずここを整えるということです。
(出典)金融庁「経営者保証に依存しない融資慣行の確立に向けた施策等について」/中小企業庁「経営者保証」/財務省「法人企業統計調査」
最初に指導してくれる相手がいるかどうかで、決算書は変わる
この4つの分離は、決して難しい作業ではありません。それでも整っていない会社が多いのは、誰も最初にそれを言わないからです。会社と個人のお金の区分は、法人化した直後にこそ手をつけるべき論点ですが、申告を淡々と進めるだけの関わり方では、話題にすらなりません。結果として、社長個人と会社のお金の区分ができないまま、信用を得られない決算書を毎年積み上げてしまうことになります。これは誰かの落ち度という話ではなく、関与の仕方がそういう形になっているということです。逆に言えば、関わり方を変えれば、決算書は変わります。
私たちが毎月、どう関わっているか
参考までに、Actvision税理士法人の関わり方をお伝えします。私たちは毎月お会いする契約しか結んでいません。担当者と社長のマンツーマンで1時間半から2時間、試算表を挟んで議論します。役員貸付金がある会社では、この月次の場で残高が今月どう動いたかを必ず確認します。増えていれば、どの支出が経路になったのかをその場で特定し、口座やカードの分離で塞げるかを検討します。そして「この残高を何年で解消するか」を先に決め、そのために必要な役員報酬の水準を計算してお示しします。断定せず、「もしこの水準にすると会社に残る利益はこうなりますが、どうでしょうか」という形で数値的なインパクトに変換してお返しするのが基本です。面談の最後には「決めていただきたいこと」「次回までに実行していただきたいこと」をお渡しし、動きが必要な案件は2週間に1回の打合せで確認します。
▶ 関連コラム:運転資金の適正水準|利益が残らない理由(借りた資金が在庫や売掛金に滞留していないかという、もう一つの行き先)
ここまでが、どの会社にも共通する考え方です。ここから先は、御社の借入の時期と役員貸付金の増減の推移、そしてその残高がどのような経緯で発生したのかが分からないと、それが問題になるのかどうかは判断できません。金額の目安がない以上、判断できるのは金額ではなく因果関係だけであり、それは決算書を3期以上並べないと見えないためです。
監修税理士 塩谷宣弘の見解
私がこの話をするときに一番強く申し上げるのは、銀行の読み方です。会社に貸したお金を社長に横流しして、社長は会社のお金を使うことに何のためらいもない。だからあまり信用できない、と見られます。数字の良し悪しではなく、姿勢の問題として受け取られてしまうんです。だから私たちは、会社と個人のお金が混ざっている会社には、まず口座を分ける・カードを分ける・法人カードで統一する・引落先を区別するという4つを、この順番でやっていただきます。減らす作業より、増えない形を作るほうが先です。これを最初にお伝えしないままだと、社長個人と会社のお金の区分ができず、信用を得られない決算書を量産してしまうと考えています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 役員貸付金は、いくらまでなら銀行に問題視されませんか?
いくらまでなら問題にならないという目安はありません。金額に線引きがあるわけではなく、個人と法人をしっかり区別できているかどうかがすべてだからです。実務で見られているのは残高の大きさではなく、借入をした年度や借入の直後に増えていないか、そして年々増えているか減っているかという因果関係と方向です。目安を探すよりも、一つのけじめとして分けてしまうほうが後々楽になります。
Q2. 法人成りのときに発生した役員貸付金も問題になりますか?
その後、少しずつ減っているのであれば、銀行はそれほど大きな問題として扱いません。成り立ちが説明でき、かつ改善の方向に動いているためです。逆に、法人成り由来であっても残高が年々増えている場合は、かなり大きな問題として捉えられます。大切なのは、説明できる由来と、減っているという方向の2つです。この2つが揃っていれば、残高があること自体で融資の話が止まることは通常ありません。
Q3. 役員貸付金を減らすには、どうすればよいですか?
役員報酬を増やして、そこから返していくという方法しかありません。それ以外の方法はないとお考えください。ただし役員報酬を増やせば社会保険料や個人の税負担も動くため、会社に残す利益とのバランスを見ながら水準を決める必要があります。来期の計画から必要利益を逆算して設計する領域です。※役員報酬の変更には時期と手続きの要件があるため、実行の際は担当税理士にご相談ください。
Q4. まず何から着手すればよいですか?
会社と個人のお金を分ける4つの作業から始めてください。①会社の口座と個人の口座を明確に分ける ②クレジットカードを個人用と法人事業用に分ける ③法人カードが使えない取引先の分も含めて法人カードを使う形にする ④ETCなどの口座引き落としも引落先を区別する、の順番です。いずれも今日から着手できます。これをやるだけで、役員貸付金が新たに増える経路がほぼ塞がります。
Q5. 役員貸付金があると、個人保証を外す話は進められませんか?
難しくなります。個人保証を外す話も事業承継の話も、「法人と個人が分かれているか」という同じ論点の上に乗っているためです。役員貸付金が増え続けている状態は、その前提が満たされていないことを決算書の上で示してしまいます。順番としては、まず口座とカードの分離で増加を止め、次に残高を減らす計画を立て、そのうえで保証や承継の相談に入るのが現実的です。
まとめ|金額ではなく、方向を変えることから始める
この記事でお伝えしたことを整理します。
- もっとも問題視されるのは、銀行から借りたお金がそのまま役員貸付金に流れている形
- 銀行が見ているのは「あること自体」ではなく、借入との因果関係
- 確認されるのは①借入年度に増えたか ②借入直後に増えたか ③年々増えているか減っているか
- 法人成り由来で少しずつ減っているなら、大きな問題にはならない
- 逆に年々増えている/借入のタイミングで増えたなら、かなり大きな問題として扱われる
- 「いくらまでなら大丈夫」という目安はない。金額ではなく区分の問題
- 減らす方法は役員報酬を増やす一択
- その前に口座を分ける・カードを分ける・法人カードで統一する・引落先を区別する
- 減らす作業より先に、増えない状態を作る
役員貸付金は、放っておくと毎年少しずつ増える性質があります。増える経路が塞がれていないからです。まずは直近3期の決算書を並べて、残高が増えているのか減っているのかだけを確かめてみてください。増えているのであれば、金額を返す前にやるべきことがあるということです。
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