毎月試算表を受け取っているのに、どこを見ればいいのか分からない。消耗品費がなぜ増えたのかは気になるのに、会社全体が良くなっているのかは答えられない。そんな社長は少なくありません。本記事では、社長が毎月見るべき5つの数字と、その見る順番を税理士の実務目線で整理します。5つの数字それぞれについて、さらに詳しく掘り下げたコラムへの道案内も付けています。

この記事の結論:試算表は見る量より、見る順番です。社長が毎月見るのは、①実質預金(現預金−借入金)の増減 ②売上の増減 ③粗利率の増減と、社長の感覚とのズレ ④販管費の増減 ⑤決算の着地の5つ。なかでも手を打つサインになるのは粗利率です。細かい科目から見始めると、会社全体の大切な数字を見落とします。大切なのは「決算書が読める」ことではなく、数字を読んだ結果、打つ手がどう変わるかです。

試算表を、細かい科目から見ていませんか

毎月の試算表をPCで開き、どの数字から見ればよいか迷う中小企業の経営者
試算表は受け取っていても、見る順番が決まっていない社長は多い

試算表は、会社の1ヶ月の成績表です。ところが、毎月受け取っていても「結局、うちは良くなっているのか」に答えられない社長は珍しくありません。よくある2つの状態を確認します。

細かい科目の増減だけが目に入る

試算表を開くと、勘定科目がずらりと並んでいます。そのなかで目に留まりやすいのは、事務消耗品費がなぜ増えたのかといった、細かい科目の増減です。気になって確認すること自体は悪くありません。ただ、細かいところだけを見て、会社全体のいちばん大切な数字を見ていない社長が、私たちが見てきた範囲では結構おられます。消耗品の数万円の増減に気を取られている間に、粗利率が下がっていることや、手元のお金が実質的に減っていることを見落としてしまう。これがいちばん避けたい状態です。

「決算書が読めるか」で止まっている

もう1つは、「数字が読めるようになりたい」で止まっている状態です。決算書の読み方の本を読み、用語は分かるようになった。それでも経営の打ち手が変わらないなら、読めることに意味はありません。本当の課題は「決算書が読めるか」ではなく、「数字を読んだ結果、打つ手がどう変わるか」です。そのためには、毎月どの数字をどの順番で見るかを決めておく必要があります。

なぜ試算表を見ても、打つ手が変わらないのか

スマートフォンに表示した経営数字のグラフで、預金残高と借入金の差額を確かめる場面
見ている数字そのものが、経営判断に合っていないことがある

試算表を見ても打つ手が変わらない原因は、大きく2つあります。

見る量ではなく、見る順番の問題

「社長が見なくていい数字はありますか」と聞かれることがあります。私たちの答えは、見すぎて困ることはないので、見たいならどんどん見てよいです。問題は量ではありません。順番です。大枠の数字を先に見て、気になる動きがあったときに細かい科目へ下りていく。この順番が逆になると、細かい数字の説明を聞くだけで1時間が終わり、会社全体の方向について何も決まらないまま面談が終わります。

預金残高だけを見て、安心している

もう1つは、お金の見方です。多くの社長は、まず預金残高を見ます。残高が増えていれば安心し、減っていれば不安になる。しかし、残高が増えた理由が借入をしたからなら、会社のお金が増えたわけではありません。見るべきなのは、預金から借入金を引いた差額(実質預金)が増えているかどうかです。ここを取り違えると、借りたお金を稼いだお金と勘違いしたまま、判断を続けることになります。

監修税理士 塩谷宣弘の見解

「見なくていい数字はありますか」と聞かれたら、私は見すぎて困ることはないとお答えしています。ただ、事務消耗品がなぜ増えたのかといった細かいところだけを見て、大枠のいちばん大切な数字を見ない方が結構おられます。そして最初に見ていただきたいのは、預金残高ではなく、預金から借入金を引いた差額です。数字が読めるようになると、打つ手が変わります。何に今問題があるのかが分かれば、現場に落とし込むのは社長がもともと得意な分野ですから、動きは変わると私は考えています。

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自己診断:毎月、5つの数字を見ていますか

5つの数字の話に入る前に、いまの試算表の見方を確かめておきましょう。次の項目にいくつ当てはまるかを見てみてください。

✅ 自己診断:あなたの会社はいくつ当てはまりますか?

  • お金の状態を、預金残高だけで判断している
  • 今月の粗利率を、試算表を見ずに答えられない
  • 粗利率が自分の感覚と合っているかどうかを確かめたことがない
  • 販管費が増えたとき、効果が出ている支出か、先行投資かを分けて考えていない
  • 今期の決算がいくらで着地しそうかを、毎月は確認していない
  • 試算表を見る時間の大半が、細かい科目の説明で終わっている
  • 商品販売業や工事業なのに、毎月の棚卸しをしていない

3つ以上当てはまる場合、試算表を毎月受け取っていても、経営の打ち手を変える材料として使えていない可能性があります。

社長が毎月見る5つの数字と、見る順番

試算表の実質預金・売上・粗利率・販管費・決算着地を順番に確認する経営者と税理士の打ち合わせ
大枠から順に見て、気になる動きがあったときだけ細かい科目へ下りる

社長が毎月見る数字は、次の5つです。この順番で見てください。

  1. 実質預金(現預金−借入金)の増減——会社のお金は本当に増えたか
  2. 売上の増減——増えているか、減っているか
  3. 粗利率の増減と、社長の感覚とのズレ——手を打つサインはここに出る
  4. 販管費(固定費)の増減——増えたなら、効果が出ているか・先行投資か
  5. 決算の着地——このままの利益で、来期の銀行対策と信用に届くか
見る数字確かめること詳しく知りたいとき
①実質預金の増減預金残高ではなく、預金−借入金の差額が増えているか銀行が見るポイント/運転資金の適正水準
②売上の増減増減の向きと、どの取引先・商品で動いたか取引先別の粗利の出し方
③粗利率と感覚のズレ粗利率が下がっていないか、社長の思う利益率と合っているか原価率が合わない/月次棚卸しのやり方/値上げの判断基準
④販管費の増減増えた支出が、効果の出ている支出か先行投資か経費削減で賃上げ原資を生む/労働分配率の目安
⑤決算の着地このままの利益で、来期の銀行対策と信用に届くか月次決算の活用法/試算表が遅い会社の立て直し方

①実質預金と②売上:お金と規模の向きを確かめる

最初に見るのは実質預金の増減です。預金残高ではなく、現預金から借入金を引いた差額を見ます。これが増えていれば、会社は本当にお金を生み出しています。借入で残高が増えただけなら、実質預金は増えていません。この考え方は、銀行が会社を評価するときの「実質借入」と同じ物差しです。次に売上の増減を見ます。ここでは金額の細かさより、増えているのか減っているのかという向きを確かめます。売上が増えているのに実質預金が減っているなら、どこかでお金が止まっています。売掛金や在庫が膨らんでいないかを疑う合図です。

③粗利率:手を打つサインはここに出る

5つのなかで手を打つサインになるのが粗利率です。粗利率は絶対に見てください。見るのは数字そのものだけでなく、社長が思っている粗利率と合っているかです。たとえば粗利率が下がっているなら、粗利の悪い商品が多く売れている可能性が高く、商品別の粗利を見直す、安易な値引きをしていないかを確かめる、という打ち手につながります。なお、商品販売業や工事業で毎月の棚卸しをしないのは、粗利率を見ないことに等しいと私たちは考えています。棚卸しをしなければ、毎月の粗利率は正しく出ないからです。

▶ 関連コラム:月次棚卸しのやり方|粗利率が狂う理由(毎月の粗利率を正しく出すための前提)

④販管費と⑤決算着地:使ったお金と、年間の着地を見る

4番目は販管費(固定費)の増減です。増えていること自体は問題ではありません。確かめるのは、その支出がすでに効果を出している支出なのか、まだ効果は出ていないが戦略的な投資なのかです。どちらでもない支出が増えているなら、見直しの対象になります。最後に決算の着地を見ます。このままのペースで進んだとき、今期の利益がいくらになりそうか。そしてその利益で、来期の銀行対策や会社の信用に届く水準かを確かめます。着地を毎月確かめていれば、決算直前に慌てることがなくなります。

▶ 関連コラム:銀行が見るポイント|実質借入と債務償還年数(①実質預金と⑤決算着地を、銀行の目線で読む)

実務ポイント|5つの数字を、打つ手に変える

月次面談で試算表の5つの数字をもとに次の一手を話し合う経営者と担当税理士
数字の説明ではなく、次に何をするかを決める時間にする

5つの数字を見る順番が決まったら、次はそれを打つ手に変える段階です。実務でつまずきやすい点を整理します。

決算着地は「昨年に比べてどうなりそうか」で作る

5番目の決算着地を出そうとして、「売上の見込みなんて分からない」と止まる社長は多くいます。実務では、聞き方を変えるだけで答えが出ます。「売上の見込みはどうなりますか」と聞くと、ほとんど答えは出ません。ところが「昨年に比べてどうなりそうですか」と聞くと、ほとんどの場合それで答えが出ます。原価率は直近3ヶ月や半年の実績を使って置けば十分です。コツは、昨年の数字を見ながら、適当でもいいので数字を出すこと。1年から1年半ほど毎月続けていると、見込みは自然に出せるようになります。

社長の感覚とのズレこそ、経営の核心

3番目の粗利率で「社長の感覚と合っているか」を確かめると、多くの場合ズレが見つかります。判断の土台にするのは過去の実績ですが、なぜズレているのかは必ず掘り下げます。社長が思っている利益率を聞き、それが数字のどの項目にどれだけ表れているかを並べる。さらに必要なら特定の1案件に絞って、見積書と実際の利益を見比べます。社長の感覚と数字のズレは、経営の中心的なテーマであることが多いので、見過ごさないことが大切です。

私たちが毎月、5つの数字をどう扱っているか

参考までに、Actvision税理士法人の関わり方をお伝えします。私たちは毎月お会いする契約しか結んでいません。月次面談は担当者と社長のマンツーマンで1時間半から2時間。いきなり数字は開かず、前回の議事録をもとに社長の変化と課題感を確かめてから試算表に入ります。数字は5つの順番で見て、計画とズレた箇所は「なぜその差が生まれたか」を議論します。季節変動のように原因がはっきりしているズレは深追いせず、自社でコントロールできる数字のズレを追います。面談の最後には「社長に決めていただくこと」と「次回までに実行していただくこと」をまとめてお渡しします。業種別の粗利率(売上総利益率)の水準は財務省の法人企業統計で確認でき、中小企業の経営者に求められる数字の読み方については中小企業白書も「経営リテラシー」を主題に取り上げています。

(出典)財務省「法人企業統計調査」/中小企業庁「中小企業白書」

ここまでが、どの会社にも共通する見方です。ここから先は、御社の試算表と推移表、借入の残高、社長が思っている粗利率が分からないと、「どの数字が、なぜ動いたのか」「次に何を打つべきか」という具体的な答えは出せません。同じ粗利率の低下でも、商品構成によるものか、値引きによるものか、棚卸しの数字によるものかで、打つ手はまったく変わるためです。

監修税理士 塩谷宣弘の見解

私は、粗利率は絶対だと考えています。商品販売業や工事業で棚卸しをしないというのは、粗利率を見ないことに等しいのです。決算着地も、「売上の見込みはどうなりますか」と聞くとほとんど答えが出ませんが、「昨年に比べてどうなりそうですか」と聞くと、ほとんどの場合それで解決します。コツはただ一つ、昨年の数字を見ながら、適当でもいいので数字を出すことです。毎月利益額を確認していると、決算書の読み方の本を読むより数倍勉強になると私は感じています。

▶ 関連コラム:月次決算の活用法|経営判断に変える型(5つの数字を月次面談でどう議論するか)

よくある質問(FAQ)

Q1. 試算表で、社長が最初に見るべき数字は何ですか?

実質預金(現預金から借入金を引いた差額)の増減です。預金残高だけを見ると、借入で増えたお金を稼いだお金と取り違えてしまいます。次に売上の増減、粗利率の増減と社長の感覚とのズレ、販管費の増減、決算の着地の順に見ていきます。

Q2. 見なくてもいい数字はありますか?

見すぎて困ることはないので、見たい数字はどんどん見て構いません。問題は量ではなく順番です。細かい科目の増減だけを見て、実質預金や粗利率といった会社全体の大切な数字を見ていない状態が、いちばん避けたい状態です。

Q3. 粗利率が下がっていたら、何を疑えばよいですか?

まず粗利の悪い商品が多く売れている可能性を疑い、商品別の粗利を見直します。あわせて安易な値引きをしていないかも確かめます。商品販売業や工事業では、毎月の棚卸しをしていないと粗利率そのものが正しく出ないため、棚卸しの有無も確認してください。

Q4. 決算の着地予想は、どうやって作ればよいですか?

推移表をもとに、売上・変動原価・固定費が今後どう動くかを見込みます。売上が読めない場合は「昨年に比べてどうなりそうか」で置き、原価率は直近3ヶ月や半年の実績を使います。適当でもいいので数字を出し、毎月続けることで精度は上がっていきます。

Q5. 試算表はいつまでに出てくれば、5つの数字を使えますか?

目安は翌月末です。2〜3ヶ月遅れて出てくる試算表は「もう過去の話」になり、打ち手を変える材料としての効果はほとんどありません。試算表が遅い場合は、まず月次面談の日を先に決め、そこから逆算して資料の回収スケジュールを組み直します。

まとめ|試算表は、見る順番で打つ手が変わる

この記事でお伝えしたことを整理します。

  • 試算表は見る量より、見る順番
  • ①実質預金(現預金−借入金)の増減を最初に見る
  • ②売上は増減の向きを見る
  • ③粗利率は手を打つサイン。社長の感覚とのズレを必ず確かめる
  • ④販管費は、効果の出ている支出か先行投資かを分ける
  • ⑤決算着地は「昨年に比べてどうなりそうか」で毎月置く
  • 大切なのは「決算書が読める」ことではなく、打つ手がどう変わるか

試算表は、毎月届く会社の成績表です。来月の試算表から、まず実質預金と粗利率の2つだけでも、この順番で見てみてください。それぞれの数字をさらに深く知りたいときは、上の表や下のリンクから各コラムへ進んでください。

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監修者 Actvision税理士法人 代表社員税理士 塩谷宣弘

監修者

塩谷 宣弘(しおたに のぶひろ)|Actvision税理士法人 代表社員税理士(近畿税理士会所属)/Actvision Consulting株式会社 代表

28歳で税理士試験に合格。KPMG税理士法人にてM&Aタックスアドバイザリーグループに2年、インターナショナルコーポレートタックス部に2年在籍し、M&A税務と国際税務に従事。32歳でActvisionグループを創業し、銀行融資支援に特化して開業5年で従業員35名規模の税理士法人へと成長させる。融資支援歴12年。船井総合研究所の創業融資セミナーで講師を務めるほか、信用金庫の勉強会で創業融資の実態を講演。自社の組織課題と再建を経験し、マネジメント改革で離職率・組織力・営業力を回復させた実績を持つ。現在は「中小企業経営者の唯一無二のパートナーになる」を理念に、顧問先200社を支える税理士法人を母体として、2年で20社以上のコンサルティング契約・延べ70社の事業計画策定に携わり、理念経営・ビジネスモデル策定・経営管理・人事戦略・財務戦略を横断する中小企業特化のコンサルティングを提供している。(実績数値は2026年8月時点)

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最終更新:2026年10月