融資を申し込んだのに希望額に届かなかった、あるいは理由がはっきりしないまま断られた。そんな経験をお持ちの経営者は少なくありません。銀行が決算書のどこを、どの順番で見ているかを知らないままでは、次の決算も同じ結果になります。本記事では、銀行が最初に見る「借入金の行き先」と、次に見る「債務償還年数」という2つの評価軸を、融資支援歴12年の税理士の視点から解説します。

この記事の結論:銀行は決算書を上から順に読んでいるわけではありません。①借りたお金が資産のどこに流れたか(貸借対照表の資産効率)→②債務償還年数(借入金を利益で何年で返せるか。目安は3〜5年)という順で見ています。そして決算直前にできる打ち手は、ほとんどありません。評価を変えたいなら、次期の決算書が銀行取引に耐える形になるよう、必要な利益を先に決めておくことが唯一の道です。

「なぜ借りられなかったのか」が分からないという悩み

銀行が決算書のどこを見るのかを財務レポートで確認する中小企業の経営会議
評価軸が見えないまま、次の決算を迎えてしまう

融資の可否そのものより、経営者を苦しめるのは「何が足りなかったのか分からない」という状態です。基準が見えないまま次の決算を迎えるため、打ち手を決めようがありません。

断られた理由が「総合的な判断」で終わってしまう

融資が通らなかったとき、銀行から返ってくる説明が抽象的で終わることがあります。「現在の業況を総合的に勘案しまして」という言い方をされると、経営者としては次に何を直せばよいのかが分かりません。結果として、来期も同じ決算書を出し、同じ結果を受け取ることになります。断られた理由を具体的に確認しないまま次に進むことが、最ももったいない対応です。数値面が理由なのか、それ以外の要素が理由なのかによって、打つべき手はまったく変わります。ここを曖昧にしたままでは、決算対策も融資戦略も設計できません。

決算の直前になって慌てて相談が来る

「この決算のままでは借りられないかもしれない」と気づくのが、決算月の直前というケースは非常に多くあります。ところが、その時点でできることはほとんど残っていません。会計原則の範囲で表示を適正にすることはできても、数字そのものを短期間で作り替えることはできないからです。融資の準備は決算の直前にするものではなく、期首から1年をかけて行うものです。この時間軸のズレが、多くの中小企業で融資を難しくしています。

「税理士に任せているのに評価が上がらない」

記帳も申告も税理士に任せている。それでも銀行の評価が変わらない、という相談もよくいただきます。これは税理士が手を抜いているという話ではなく、税務申告の正確さと、銀行から見た財務の健全さは、評価する軸が別だからです。申告は確定した過去を正しく整える仕事であり、銀行評価は「これから返せるか」を見る仕事です。両者は目的が違うため、申告が正確であることは融資の通りやすさを保証しません。決算書は税務署に出す書類であると同時に、銀行に出す会社の履歴書でもあります。

なぜ銀行の評価軸が読めなくなるのか

評価軸が見えなくなる背景には、経営者側と銀行側で見ている場所が根本的にズレているという事情があります。

経営者は損益計算書、銀行は貸借対照表を見ている

経営者が真っ先に気にするのは、売上と利益です。一方で銀行が先に確認するのは、貸借対照表(BS)に載っている資産の中身です。前期に貸したお金が、いま資産のどこに姿を変えて残っているのか。ここを見ないことには、次に貸す判断ができないためです。損益計算書(PL)だけを追いかけていると、この視点がまるごと抜け落ちます。売上が伸びているのに融資が渋くなる、という現象はここから生まれます。PLは1年間の成績表、BSは創業からの通信簿だと考えると分かりやすくなります。

「借りられた実績」と「評価されている」は別物

これまで借りられてきたから、うちは評価されている。そう受け取ってしまうことがありますが、両者はイコールではありません。制度融資や保証付き融資のように、銀行がリスクを負っていない借入が含まれている場合、その実績は銀行のプロパー評価とは切り離して考える必要があります。借入残高が積み上がっているのに新規の融資が止まる、という局面は、この差が表面化した瞬間です。過去に借りられた事実ではなく、いまの決算書がどう読まれるかで判断されます。

決算書は1年に1度しか出せない

3つ目の理由は単純です。決算書は年に1回しか提出できません。つまり、銀行に見せる資料を作り直せる機会は年に1度しかなく、その1度が悪ければ、次の1年間はその決算書で交渉することになります。月次で数字を追っていない会社ほど、着地が見えるのが期末近くになり、修正が間に合いません。逆に、期中から着地見込みを把握している会社は、必要な利益を確保するための手を打つ時間を持てます。融資に強い会社とは、決算がうまい会社ではなく、期中に数字を握れている会社です。

✅ 自己診断:あなたの会社はいくつ当てはまりますか?

  • 自社の借入金残高と現預金残高を、即答できない
  • 債務償還年数という言葉を、計算したことがない
  • 借りたお金が資産のどこに変わったかを説明できない
  • 融資を断られた理由を、銀行に具体的に確認していない
  • 決算の着地見込みが分かるのは、期末の1〜2か月前になってからだ
  • 銀行との面談で話す内容を、事前に整理していない
  • 来期にいくら借りる必要があるかを、数字で置いていない

3つ以上当てはまる場合、決算書が銀行取引に耐える形になっておらず、必要なときに必要な額を借りられない可能性があります。

銀行が決算書を見る順番と、実質借入という考え方

実質借入金と債務償還年数を試算しながら銀行評価を確認する場面
銀行の評価は、2つの軸に整理できる

ここからが本題です。銀行の見方は、大きく2つの順番に整理できます。この2つを自社の数字で押さえておくだけで、銀行との会話は大きく変わります。

Step1:借りたお金が「資産のどこに流れたか」

銀行が最初に確認するのは、貸したお金が資産科目のどこに姿を変えたかです。たとえば3,000万円を融資したとして、それが預金として残っているのか、商品や原材料に変わったのか、それとも私用に近い車両に変わってしまったのか。ここを見ています。売上を生む資産に変わっていれば、資金は事業に回っていると判断されます。逆に、事業と関係の薄い資産に変わっていれば、次の融資は慎重になります。これは「BSが資産効率を考慮したバランスになっているか」という問いそのものです。使途を説明できる状態にしておくことが、次の融資の土台になります。

Step2:債務償還年数は3〜5年に収まっているか

次に見られるのが債務償還年数、すなわち借入金を利益で何年かけて返せるかという指標です。実務上の計算式は次のとおりです。

項目内容
実質借入金借入金 − 現預金
返済原資当期純利益 + 減価償却費
債務償還年数実質借入金 ÷ 返済原資
目安3〜5年に収まっているか

この年数が長くなるほど「返済に時間がかかる会社」と見られます。来期に借入をした後も3〜5年の範囲に収まるかどうか。ここから逆算して、今期に必要な利益額が決まります。

Step3:手元資金を差し引いた「実質」で考える

借入金の絶対額だけを見て「借りすぎだ」と悩む経営者は多いのですが、銀行が見ているのは現預金を差し引いた実質の借入です。借入金が1億円あっても、現預金が5,000万円あれば実質は5,000万円になります。だからこそ、返せる範囲で厚めに借りて手元資金を持っておくことは、必ずしも評価を下げません。重要なのは残高の大きさではなく、その借入を利益で何年かけて返せるかという関係です。この考え方は、社長の役員報酬をいくらに設定するかという判断とも直結します。会社に残すべき利益が先に決まるためです。

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実務ポイント|銀行対応で私たちが実際にしていること

月次の試算表を見ながら銀行評価と次の一手を議論する経営者と税理士
銀行対応は、決算前ではなく期中に決まる

ここからは、当法人が実際に行っていることをお伝えします。世間で言われている「税理士の銀行対応」とは、少し違う考え方かもしれません。

銀行への同席は、基本的にしていません

当法人は、銀行対応への同席を基本的にしていません。理由は明確で、税理士が前に出て説明してしまうと、社長の信用度が下がってしまうからです。数字のプロが説明して銀行を納得させられたとしても、それは会社としての根本的な信用にはなりません。銀行が貸すのは、あくまで社長の信用と社長の会社であって、税理士ではないからです。社長がポイントを掴んで自分の言葉で語ること。それ自体が、銀行に対する信用の積み上げになります。

ただし、同席が常に不要というわけではありません。社長が先の展望を財務数字を踏まえて話し、必要なときだけ税理士が補足するという形であれば、同行はかなり効果的に働きます。主役を入れ替えないことが条件です。

「この決算では借りられない」と分かったときの打ち手

正直に申し上げると、決算直前にできる打ち手は、ほとんどありません。会計原則の範囲で表示を適正にすることはできても、それ以上のことはできないからです。本質的な対応は、決算書が次期の銀行取引に耐える形になるよう、必要な利益を先に明確にしておくこと、そしてそれを実行できる組織を作っておくことに尽きます。

絶対にしてはいけないのが、売上や在庫の水増しです。これは単なる粉飾決算であり、銀行の信用を著しく落とすだけで終わります。粉飾するくらいなら、そのまま赤字を出すほうが社長にとってはベストだと考えています。赤字は説明できますが、粉飾は説明できません。

断られた後に通ったケースで、変えたこと

一度断られた後に融資が通ったケースに共通しているのは、断られた理由を銀行に確認して明確にしたという一点です。ここが起点になります。理由が決算書の数値面であれば、役員報酬の減額や利益率の改善を通じて黒字化を目指す、という具体的な打ち手に落とせます。一方、数値以外の要素が理由であれば、そこを解決しない限り次も通りません。理由が分からないままの再申込みは、時間を失うだけです。銀行としっかりコミュニケーションを取り、何をどう変えるべきかを検討することが、遠回りに見えて最短の道になります。

月次で何を議論しているか

私たちは顧問先と毎月、試算表を挟んで1時間ほど議論します。報告して終わりの時間にはしません。議題は決まっていて、①計画と実績がどれだけズレたか、②このままの着地で債務償還年数が何年になるか、③次の四半期で何に着手するか、の3点です。期末の3か月前には、必要な利益額に届くかどうかが見えてきます。そこから逆算して、決算までに打てる手を決めます。銀行対応は、決算書ができてから始まるのではなく、期中の毎月の意思決定の積み重ねで決まります。

ここまでが、どの会社にも共通する銀行の見方です。ここから先は、御社の借入金残高・現預金残高・直近の利益と減価償却費が分からないと、債務償還年数が何年なのかも、来期いくらまで借りられるのかも申し上げられません。同じ年商でも、設備投資の有無と返済スケジュールによって答えは大きく変わるためです。

よくある質問(FAQ)

銀行は決算書のどこを最初に見ますか?

まず見るのは、借入金が資産のどこに流れたかです。貸した資金が預金・商品・車両などのどこに姿を変えたかを確認し、貸借対照表が資産効率を考慮したバランスになっているかを判断します。その次に債務償還年数を見る、という順番が一般的です。

債務償還年数の目安は何年ですか?

実務上の目安は3〜5年です。実質借入金(借入金−現預金)を、当期純利益と減価償却費の合計で割って算出します。来期に新たな借入をした後もこの範囲に収まるかどうかを、事前に試算しておくことをおすすめします。

決算直前に融資対策としてできることはありますか?

会計原則の範囲で表示を適正にすることはできますが、ほとんどの場合、直前での有効な打ち手はありません。売上や在庫の水増しは粉飾決算にあたり、銀行の信用を著しく損ないます。対策は決算前ではなく、期首から必要利益を設計する形で行ってください。

銀行との面談に税理士は同席したほうがよいですか?

当法人では基本的に同席していません。税理士が前に出て話すと、社長自身の信用が積み上がらないためです。ただし、社長が展望を財務数字を踏まえて説明し、必要なときだけ税理士が補足する形であれば効果的です。

融資を断られました。次に何をすべきですか?

まず、断られた理由を銀行に確認して明確にしてください。決算書の数値面が理由であれば役員報酬の見直しや利益率の改善で黒字化を目指し、それ以外が理由であればその点を解消しない限り次も通りません。※個別の融資判断は金融機関によって異なります。

まとめ

銀行の評価は、感覚ではなく順番で決まっています。要点を整理します。

  • 銀行はまず借入金が資産のどこに流れたかを見て、次に債務償還年数を見る
  • 債務償還年数の目安は3〜5年。実質借入金(借入金−現預金)÷(当期純利益+減価償却費)で計算する
  • 決算直前の打ち手はほとんどない。必要な利益を期首に決め、期中で作りにいく
  • 粉飾は論外。赤字は説明できるが、粉飾は説明できない
  • 断られたら、まず理由を銀行に確認する。そこがすべての起点になる

このまま評価軸が分からないまま次の決算を迎えると、必要なタイミングで必要な額を借りられず、設備投資も採用も先送りになります。判断を後ろにずらすほど、選べる手は減っていきます。自社の債務償還年数がいま何年なのか、一度数字で確認しておくことをおすすめします。

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監修者 Actvision税理士法人 代表社員税理士 塩谷宣弘

監修者

塩谷 宣弘(しおたに のぶひろ)|Actvision税理士法人 代表社員税理士(近畿税理士会所属)/Actvision Consulting株式会社 代表

28歳で税理士試験に合格。KPMG税理士法人にてM&Aタックスアドバイザリーグループに2年、インターナショナルコーポレートタックス部に2年在籍し、M&A税務と国際税務に従事。32歳でActvisionグループを創業し、銀行融資支援に特化して開業5年で従業員35名規模の税理士法人へと成長させる。融資支援歴12年。船井総合研究所の創業融資セミナーで講師を務めるほか、信用金庫の勉強会で創業融資の実態を講演。自社の組織課題と再建を経験し、マネジメント改革で離職率・組織力・営業力を回復させた実績を持つ。現在は「中小企業経営者の唯一無二のパートナーになる」を理念に、顧問先200社を支える税理士法人を母体として、2年で20社以上のコンサルティング契約・延べ70社の事業計画策定に携わり、理念経営・ビジネスモデル策定・経営管理・人事戦略・財務戦略を横断する中小企業特化のコンサルティングを提供している。(実績数値は2026年8月時点)

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最終更新:2026年8月